令和8年版 水循環白書

概要

「令和8年版 水循環白書」は、水循環基本法に基づき、令和7年度に政府が講じた施策を報告する。特集「水循環とリスク~国民の暮らしと未来を守るために~」では、気候変動、水インフラの老朽化、災害、担い手不足を取り上げ、治水・渇水対策、施設の維持管理、デジタル技術の活用、関係者が連携する流域マネジメントを述べている。

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要点

  • 水循環基本法第12条に基づく、令和7年度の政府施策の報告。
  • 特集は、気候変動、施設の老朽化、災害、担い手不足を水循環のリスクとして扱う。
  • 水インフラの戦略的な維持管理・更新と、災害時の機能確保が重要とされる。
  • 健全な水循環の維持又は回復に向け、国民参加による流域マネジメントを重視する。

概要

「令和8年版 水循環白書」は、第221回国会(特別会)に提出された。水循環基本法(平成26年法律第16号)第12条の規定に基づき、令和7年度に政府が講じた水循環に関する施策を報告する文書である。本編は流域連携、地下水、貯留・涵養、水利用、教育、普及啓発、調査、科学技術、国際協力などを扱う。

特集の正式な題名は「水循環とリスク~国民の暮らしと未来を守るために~」。構成は「第1節 気候変動が水循環と暮らしに与える影響」「第2節 水循環を支える水インフラの現状と課題」「第3節 未来を守るための取組と国民参加」である。気候、水インフラ、人材と参加という順に課題と対応を示す。

白書は、降水パターンの変化に伴う洪水・渇水や地下水への影響に加え、高度経済成長期以降に整備された施設の老朽化、地震などによる被災、技術系職員の不足を挙げる。水の恵みを将来にわたり享受し、健全な水循環を維持又は回復するため、こうしたリスクを踏まえた対応が重要だとしている。

影響

気候変動に伴う極端な大雨は、洪水によって家屋などの資産やインフラ施設に大きな被害を生じさせ得る。一方、無降水日の増加、積雪量の減少や融雪の早期化、蒸発散量の増加は、河川流量の減少や地域によっては地下水位の低下につながるとされる。白書は、洪水と渇水の双方への影響を懸念している。

海面水位の上昇と河川流量の減少により、河川で塩水が遡上する範囲や時間が増え、取水環境や水利用に影響するおそれがある。地下水の塩水化は、それを利用する地方公共団体の水道水等にも影響し得る。河川水温の上昇による冷水魚の生息域の縮小や、積雪・融雪の変化による河川生物相への影響も予測されている。

平成6年の「列島渇水」では、利根川水系で最大30%の取水制限が行われ、水道水の断水等で全国約1,582万人に影響し、農作物被害は約1,409億円に上った。白書はこの事例を、渇水が生活だけでなく農業や産業を含む社会全体に及ぼす影響として示している。

令和6年能登半島地震や埼玉県八潮市の下水道管路破損に起因する道路陥没事故では、水インフラの被災や事故が国民生活と産業活動に大きな影響を及ぼした。白書は、大規模な災害や事故が起きた場合にも、安定した水供給を含むインフラの機能を確保する必要があると述べる。

令和7年8月の九州地方の大雨では、熊本市内を流れる緑川で、緑川ダムによる洪水調節と河川整備によって洪水時の河川水位が約70cm下がり、堤防天端まで約20cmのところで越水を回避した。白書は、水インフラが水害を防ぐ効果を示す事例として挙げている。

詳細

水資源分野では、気候変動による水循環への影響を明らかにする研究と、影響を低減する適応策・緩和策が進む。国土技術政策総合研究所は全国109の一級水系を対象に流出解析を行い、少雨年と渇水流量の発生頻度の変化を公表した。文部科学省の気候変動予測先端研究プログラムでも、次期「気候予測データセット」の開発に向けた検討が進められている。

治水の適応策として、将来の降雨量増大や流域治水を踏まえ、「河川整備基本方針」の見直しが進む。各水系では国、流域自治体、企業等が協働し、河川整備、利水ダムの事前放流、「田んぼダム」、雨水貯留浸透施設、土地利用規制などを流域治水プロジェクトにまとめている。渇水に備えては、関係者が被害を想定し「渇水対応タイムライン」を作成する。

令和7年夏の渇水では、渇水体制をとった16水系で「渇水対応タイムライン」が作成された。鳴子ダム流域では6~8月の雨量が直近30年間で最少の219mmにとどまり、7月29日に貯水率が0%となった。農業用水を補うため、最低水位以下の貯留水を使う「異常渇水補給」と、岩堂沢ダムからの放流が行われた。

水道、下水道、堤防、ダムなどについては、「第1次国土強靱化実施中期計画」に基づき、予防保全型メンテナンスによる戦略的維持管理や耐震化等の耐災害性強化が進められる。八潮市の事故を受け、下水道管路では点検頻度・方法や地下管路の施設管理を検討し、2つの「メリハリ」と2つの「見える化」による管理への転換方策が示された。

能登半島地震の被災地で井戸水、湧水、雨水が代替水源として使われたことを踏まえ、地方自治体による災害用井戸・湧水の活用を支援する取組も進む。「災害時地下水利用ガイドライン~災害用井戸・湧水の活用に向けて~」は令和7年に改訂され、新設井戸の検討や整備に関する手順が充実した。

「上下水道政策の基本的なあり方検討会」の「第2次とりまとめ」は、人員・施設・財源を複数自治体が一体で管理・運営する「複数自治体による事業運営の一体化(事業統合または経営の一体化)」を推進する必要性を示した。国土交通省は、事業運営の一体化を含む広域連携を国主導で進めるため、施策を検討・実施するとしている。

市区町村の土木部門職員数は、令和7年時点で平成8年のピーク時から26.4%減少した。白書は、水インフラの運営、維持管理・更新、研究や技術開発を担う人材の不足を懸念し、デジタル技術の導入を重視する。上下水道分野では、業務の共通化、情報管理の標準化、DX技術の普及、現状可視化を通じ、メンテナンス技術の全国への標準実装が進められている。

流域の課題、将来像、方策を関係者で共有するため、地方公共団体等は「流域水循環協議会」の設置と「流域水循環計画」の策定を進める。内閣官房水循環政策本部事務局は、企業の水循環に資する取組を登録・認証し、ポータルへの掲載、地方公共団体や団体等とのマッチング、情報提供を通じて取組の継続・拡大を後押ししている。

流域マネジメントの事例として、大野市では住民の地下水位観測と研究成果を生かした地下水保全、大阪狭山市では狭山池を軸とする学習会や地域活動、印旛沼流域では自治体と民間事業者等が連携する水辺の活動を紹介する。特集は、地域の自然条件や課題に応じて行政、専門家、事業者、住民が協働する姿を具体的に示している。

本編の章立てには「流域連携の推進等-流域の総合的かつ一体的な管理の枠組み-」「地下水の適正な保全及び利用」「貯留・涵養機能の維持及び向上」「水の適正かつ有効な利用の促進等」が含まれる。続いて教育・人材育成、普及啓発、民間団体等の自発的な活動、調査、科学技術、国際的な連携と国際協力を扱い、政府施策の範囲を示している。

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