令和8年版 水循環白書第10章 国際的な連携の確保及び国際協力の推進
概要
世界では渇水、洪水、水環境の悪化に加え、食料不足、貧困、病気などが問題となり、人口増加や水需要の増加が課題を深刻化させている。こうした問題への国際連携の重要性を背景に、本章は国際会議・機関との連携、開発途上国への協力、水ビジネスの海外展開について令和7年度の取組を記す。SDGs目標6などの国際目標に貢献する取組とともに、技術協力、施設整備、人材育成、情報発信、案件形成や企業支援を幅広く実施した。インフラシステム海外展開戦略2030は、令和12年の受注額45兆円を目標に掲げる。
要点
- 世界の水問題は、水災害、衛生、食料・貧困をまたぐ継続的な国際課題として示されている。
- 日本は国連機関や地域ネットワーク、国際会議を通じ、知見共有、能力開発、国際目標の達成に向けた連携を進めた。
- 開発途上国で給水、汚水処理、かんがい、水管理、防災などの協力事業を実施した。
- インフラシステム海外展開戦略2030は、令和12年の受注額45兆円を目標とする。
概要
世界には渇水、洪水、水環境の悪化と、それに伴う食料不足、貧困の悪循環、病気の発生に直面する地域がある。人口増加などが問題を深刻にする。水問題を中心に議論する国連水会議は、令和5年3月に46年ぶりに開催され、国連決議により「国連水会議2026」と「国連水会議2028」の開催も決まった。
WHOとUNICEFの令和5年7月の報告によると、平成12年から令和4年に約21億人が安全に管理された飲料水を利用できるようになり、少なくとも基本的な飲料水サービスを受けられない人は約12億人から約7億人に減少した。令和4年には世界人口の57%、約45億人が安全に管理された衛生サービスを利用した。
OECDの「OECD Environmental Outlook to 2050」は、製造業、火力発電、生活用水などの需要増により、世界の水需要が令和32年(2050年)に令和2年(2020年)比で55%程度増加すると見込む。SDGsは令和12年(2030年)を期限とする17目標・169ターゲットからなり、目標6は水と衛生の利用可能性と持続可能な管理の確保を掲げる。
章は、国際連携、国際協力、水ビジネスの海外展開の三分野から、日本が世界の水の安定供給や適正な排水処理を通じた水の安全保障の強化に取り組む内容を示す。日本の制度、技術、システムの海外展開は、世界の水問題の解決に加え、日本経済の活性化にも資すると記されている。
影響
水関連災害は人的被害だけでなく、サプライチェーンを通じて世界経済にも影響すると説明される。タイの洪水では日系企業にも大きな影響があった。
水インフラの海外展開は、相手国の持続可能な発展に貢献し、日本の経済成長にも意義を持つとされる。戦略2030は、相手国との共創による「稼ぐ力」と国際競争力の向上、経済安全保障等への対応と国益確保、GX・DXなどの社会変革を取り込む対応を柱に置く。
第13回アジアにおける分散型汚水処理ワークショップでは、課題と解決策を議論し、今後の高性能な分散型排水処理施設の普及を促進した。関連セミナーや協力覚書の更新を通じ、日本の浄化槽の海外展開も図られた。
世界湖沼の日の制定を契機に、恵み豊かな湖沼を次世代に引き継ぎ、地域社会の持続可能な発展を実現するとの発信が行われた。
詳細
国際連携では、国連の世界水の日(3月22日)、世界水フォーラム、アジア・太平洋水サミット、世界かんがいフォーラムなどを通じ、統合水資源管理、生態系、効率的な水利用、水処理技術、環境保全に関する情報を共有・発信した。日本の経験・知見・技術を使った「質の高い」支援を掲げ、国連機関、国際機関、支援機関、NGOなどとSDGs目標6、11、3を中心とする目標の達成を目指した。
アジア河川流域機関ネットワーク(NARBO)は、統合水資源管理に関する能力開発と情報交換を行う。令和7年4月の第5回ウェビナーには加盟機関を中心に300名を超える参加があり、流域管理への情報技術活用などを扱った。令和7年9月のWEPA年次会合・国際ワークショップはマレーシアで産業排水管理を議論し、同月のICID国際会議では日本の技術・研究成果を発信した。日本の2施設が世界かんがい施設遺産に新規登録され、累計56施設、全世界合計200施設となった。
令和7年11月にはINWEPF第20回運営会議・シンポジウムを日本で開催し、水田農業の水利用や多面的機能を共有・発信した。WHOと国際水協会(IWA)の開発途上国向け飲料水品質向上活動に資金を拠出し、令和7年度は品質向上プロジェクトと飲料水水質ガイドライン改正活動が行われた。日本水道協会はニュージーランドのIWA-ASPIRE会議・展示会で国内の取組と技術を発表し、各国水道協会と意見交換した。日本下水道協会はWEFTEC2025で八潮市の下水道管路破損事故と国内対応を発信した。また、京都のIWA汚泥管理国際会議では、日本における下水汚泥の農業利用の取組が紹介された。
ILEC主催の世界湖沼会議(令和7年7月)では、国連決議による「世界湖沼の日」の履行を各国に呼び掛け、日本の湖沼水環境政策を発信した。滋賀県の制定記念フォーラム(同年8月)には当時の国土交通大臣政務官と環境大臣政務官が出席し、県と意見交換した。国際目標への貢献として、国連大学やWEPA参加国と水環境条件を統合した「持続可能な水管理指標」を開発し、家庭排水に適した汚水処理システムを検討した。COP30に併せたバクー対話のハイレベル会合で水防災の必要性を発信し、キルギスとバングラデシュで水供給案件の発掘調査を行った。
SDGsターゲット6.3の達成に向け、国土交通省と環境省が設立したアジア汚水管理パートナーシップ(AWaP)は令和7年11月にカンボジアで第4回総会を開いた。6か国が参加し、汚水管理の主流化と財政、処理施設の最適配置を議論してポリシーを制定した。水と災害に関するハイレベルパネル(HELP)の第25回・第26回会合にも参加し、「国連水会議2026」を見据えた貢献を提案した。
国際協力は令和5年6月9日閣議決定の「開発協力大綱」を踏まえ、各国政府、民間企業、国際機関、NGOなどと進めた。WB、ADB、WEPA、ERIAなどと協力し、水資源開発・管理のガバナンス、技術、能力の向上に取り組むとともに、開発途上国の都市部・村落部それぞれの需要に応じてインフラ整備と維持管理能力向上を支援した。JICAは資金協力により給水施設整備を進めた。アクセス・給水時間・水質の改善や水道事業体の経営改善に係る技術協力は35件以上実施した。フィリピン、キューバ、ボリビアでIWRM推進の技術協力3件を行い、下水道・汚水処理・水質管理では技術協力10件、有償資金協力9件、無償資金協力3件を実施中だった。
令和7年度の協力には、ネパールのタライ平野東部の既存かんがい施設改修や、カンボジアのプノンペン南西部における貧困地域のかんがい排水施設改修・整備が含まれた。日本人専門家はユネスコ政府間水文学計画第9期戦略計画(2022~2029年)のテーマ別作業部会に参加し、議長も務めた。信託基金を通じ、アジア太平洋地域の能力開発、人材育成、地域ネットワーク形成を支援した。WEPA参加国の要請に基づく水環境改善では、フィリピンとマレーシアの閉鎖性水域管理、タイのチャオプラヤ川の汚濁負荷管理指針策定などを支援した。
民間企業の水ビジネス参入支援として、アジア水環境改善モデル事業でベトナムとインドネシアの継続案件各1件の現地実証を進め、ベトナムの新規1件で事業可能性調査を行った。東南アジア・アフリカの農業基盤整備の実証結果から、農業用水の効率利用に向けたほ場整備ガイドラインを作成し、アジアモンスーン地域では気候変動対策に資する水管理・施設維持管理の実証をした。森林減少・劣化の抑止や持続可能な経営に向け、民間企業等の森林づくり貢献の可視化、植林によるカーボンクレジット創出手法の検討・開発と、防災技術展開の案件形成を支援した。
土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)は、降雨流出氾濫・土砂流出モデル、仮想洪水体験、リスク管理システムの研究、行政官育成などを実施した。令和7年度にはUNESCO、WB、ADBの支援でアジア・アフリカの洪水・渇水予測、ダム管理最適化、気候変動影響予測のプロジェクトを行った。また、タイからの要請を受け、同国で開催された地下水管理セミナーへの出席と日本の知見の発信が行われた。マレーシア研修員への地下水行政の説明や、マレーシアでの現地調査・意見交換も行われた。
水ビジネス展開の政策枠組みとして、政府は平成25年3月に経協インフラ戦略会議を開催し、同年5月にインフラシステム輸出戦略をまとめた。令和2年12月には「インフラシステム海外展開戦略2025」を策定し、世界市場の構造変化を踏まえて令和6年12月に「インフラシステム海外展開戦略2030」を策定した。海外インフラ展開法は平成30年8月31日に施行され、国所管の独立行政法人等が中立性、交渉力、国内業務で蓄積した技術・ノウハウを生かして海外業務を担い、官民一体の展開体制を構築する枠組みを定める。