令和8年版 水循環白書第9章 科学技術の振興

概要

「第9章 科学技術の振興」は、水循環施策を適切に進めるために、水に関する科学的知見を継続的に獲得し、研究機関・学会との連携、調査研究、成果の普及、研究者の養成、データの有効活用を進める方針を示す。流域、地下水、雨水、水の有効活用、水環境、全球観測、気候変動の各分野で、モデル開発や観測・解析、技術実証、情報提供を実施した。研究成果をデータ公開や管理技術の開発に生かし、衛星観測情報の提供や水循環リスクの評価・予測にも取り組んでいる。

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要点

  • 調査研究を推進し、その成果の普及、研究者の養成、データの有効活用を進める方針を示した。
  • 流域水需給、森林流出、地下水流動、雨水利用など、分野ごとの観測・解析・モデル開発を実施した。
  • 水道情報活用システム、スマートメーター、上下水道技術実証を通じ、水の有効活用に関する取組を進めた。
  • 全球観測と気候変動研究を推進し、水循環や水災害に関するデータ・予測情報の提供に取り組んだ。

概要

水循環施策を今後とも適切に進めるには、水に関する様々な側面からの科学的知見を不断に獲得することが必要不可欠とされる。最新の科学技術や過去の研究事例を踏まえ、研究機関や学会と連携して調査研究を進め、成果の普及と研究者の養成を図る。また、調査で得られたデータ、分析結果、研究成果等を分かりやすく利用しやすい形でオープンデータ化するなど、有効活用を図ることが重要とされている。

本章は、流域の水循環、地下水、雨水、水の有効活用、水環境、全球観測、気候変動の水循環への影響に関する調査研究を扱う。各分野で、観測データの解析、モデル・予測手法の開発、技術実証、調査結果の公表や共有を記載し、最後に調査研究成果の有効活用を示している。

詳細

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農村工学研究部門)は、全国1 km解像度で整備した河道網を基盤に、ダム、頭首工、用水路網など主要な農業水利施設の情報と、土地利用データ等から推定した農業水需要を統合する数値モデルを構築した。水資源の供給と需要を一体的に表現し、水系、施設、かんがい地区という異なる空間スケールで水需給の逼迫状況や渇水リスクを可視化する基盤を整備した。森林研究・整備機構森林総合研究所等は森林流域の水文観測を継続し、森林変化や気候変動等が水資源供給量に与える影響を予測するため、様々な気候条件下の森林流出モデルを研究開発した。水道原水・水道水の微量化学物質や病原生物等については、存在状況、低減化技術、監視・分析法を検討し、水質リスクを総合評価した。管理目標の設定や、水道水質基準の逐次見直しへの科学的知見の活用を通じ、水道システム全体のリスク低減と安全性強化を検討した。

大規模災害時や渇水リスクの軽減という社会課題を踏まえ、研究開発とSociety5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)では、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で開発された3次元水循環モデルを基に、モデル地域の地下水流動解析手法と、地盤の詳細な物理特性を要しない簡易モデルの開発を進めた。森林総合研究所等は、森林理水試験地で蓄積した流出量等の観測データを解析し、森林植生の変化が渇水時流出量に及ぼす影響を評価した。

雨水利用の先進事例は、令和7年度雨水利用に関する自治体職員向けセミナーで周知され、公共施設等の雨水利用施設の視察と関係者との情報交換も行われた。雨水利用の方法や効果を幅広く収集・分析・公表するため、令和7年度も雨水・再生水利用施設実態調査を継続し、全国の施設設置状況と雨水の利用用途を公表した。さらに、宇都宮市の施設や民間施設の事例を視察し、国、地方公共団体、雨水関連団体等の担当者が参加して、水質保全、流出抑制、維持管理の技術や施設規格に関する調査研究を進めた。雨水の集中的な流出の抑制効果や維持管理、施設規格も調査研究の対象となった。

水道事業者等が保有する設備・機器情報や事務系システムのデータを横断的・柔軟に利活用する「水道情報活用システム」について、導入事業者等を上下水道一体効率化・基盤強化推進事業費で支援し、導入を検討する事業者向け説明会も開催した。水道分野のスマートメーターは、検針業務の効率化に加え、利用者サービスやエネルギー使用効率の向上が期待され、モデル事業による先端技術の導入支援と、産官学連携の「New-Smartプロジェクト」への参画・助言が行われた。「上下水道一体革新的技術実証事業(AB-Crossプロジェクト)」では、処理水質を安定して維持しながら消費電力量を低減する効果等が期待される技術の実証を進めた。

農村工学研究部門は、鹿児島県大隅半島のシラス台地に設置した観測井の長期水質モニタリングデータを解析し、畜産系窒素負荷による地下水硝酸性窒素汚染では、汚染プロセスの進行に比べ水質改善により長い時間を要することを明らかにした。森林総合研究所等は、気候変動や森林施業が森林水環境に及ぼす影響を明らかにするため、森林流域内の水・栄養塩等の移動と長期的な変化傾向を解析した。また、人口減少や将来の災害を見据え、強靱で持続可能な上下水道システムの構築に向け、分散型システムやダウンサイジング可能な技術の実証事業を推進した。

令和7年5月にローマで開かれた第20回GEO本会合では、地球観測データを用いた洪水早期警報システムの構築と能力開発を発表した。同年10月の第17回アジア・オセアニア地域GEO(AOGEO)シンポジウムはバンコクで開催され、持続可能な稲作農業のエコシステムに関する特別セッションやアジア水循環イニシアティブ(AWCI)を含むタスクグループの議論を踏まえ、「2025 AOGEO Statement」を採択した。声明は、同地域の水循環等の課題解決に向けた分野横断的協力の重要性を記した。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、地球観測衛星を活用した観測を進めた。対象には、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2、平成26年5月打ち上げ)、先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4、令和6年7月)、水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W、平成24年5月)、全球降水観測計画主衛星(GPM主衛星、平成26年2月)、気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C、平成29年12月)、雲エアロゾル放射ミッション衛星「はくりゅう」(EarthCARE、令和6年5月)、高性能マイクロ波放射計3(AMSR3)を搭載する温室効果ガス・水循環観測技術衛星「いぶき GW」(GOSAT-GW、令和7年6月)が含まれる。GPM主衛星を中心に複数衛星のデータを用いる衛星全球降水マップ(GSMaP)で、令和8年3月末時点の世界163の国と地域の利用者に全球降水情報を提供した。さらなる高度化に向け、GPM主衛星に続く降水レーダ衛星(PMM)の開発や、衛星地球観測重点テーマ「水災害・水資源管理」も推進した。

土木研究所は、令和4年度からの中長期目標達成計画に基づく4年目の研究として、気候変動下の持続可能な水資源・水環境管理技術の開発を進めた。流域の水循環変化による河川水温への影響、渇水時の水質変化と河川生態系、流量変化が下水道比率の高い河川水質に及ぼす影響、湖沼・ダム貯水池の富栄養化、沿岸域の貧栄養化に対する下水処理水の栄養塩供給効果などの予測技術を継続開発した。農村工学研究部門は、流域のダム空き容量と水田の「田んぼダム」実施率を任意設定し、施設活用条件や複数施設の同時利用による出水時最大流出量の軽減効果を明らかにした。さらに、農業施設の操作支援を目的に、排水路水位や溢水・氾濫のリアルタイム観測値を示し、直近の水位データから数時間先を予測するシステムを開発した。

「地球環境データ統合・解析プラットフォーム事業」では、観測・予測等の地球環境データを蓄積し、統合・解析・提供する「データ統合・解析システム(DIAS)」を安定運用した。気候変動や防災等の地球規模課題の解決に資する研究開発を継続するとともに、全国確率洪水流量データセットの提供を開始した。気候変動予測先端研究プログラムでは、IPCC第7次評価報告書への貢献に向けた気候モデル開発、水循環への影響解明、気候予測データの創出等を進めた。また、令和7年8月の熊本県を中心とする大雨と夏の記録的高温に地球温暖化が寄与したことを明らかにし、同年9月に報道発表した。

調査研究成果の有効活用として、森林総合研究所は降水量、流出量、水質等のデータを公開し、教育機関や民間団体と共有した。雨水・再生水利用施設実態調査による全国の雨水利用施設の設置状況・用途の公表も継続した。地下水に関する取組では、BRIDGEにおいてSIP開発の3次元水循環モデルを基にした地下水流動解析手法と簡易モデルの開発を進めた。

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