米の価格高騰を検証し、安定供給へ制度・生産政策を再構築|第1章世界の食料需給不安に備える日本の食料安全保障政策

概要

世界の食料需給は、人口増加と所得向上による需要拡大、気候変動、異常気象、地政学的リスク、国際物流の混乱などにより不安定化している。2025/26年度は世界の穀物生産量が29億8千万t、消費量が29億6千万tとなる見込みだが、中国を除く期末在庫率は13.5%にとどまる。日本は供給熱量の62%を輸入に依存し、2024年度の供給熱量ベース総合食料自給率は38%だった。政府は、国内生産力の強化、備蓄、肥料・飼料など生産資材の安定確保、輸入先や物流の多様化を進める。2025年4月施行の食料供給困難事態対策法では、供給不足の兆候を早期に把握し、段階に応じて要請や計画届出の指示を行う仕組みを整えた。さらに、国際協定、二国間対話、持続可能性・人権への対応を通じ、輸入と輸出の両面から食料システムの強靱化を図っている。

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要点

  • 世界の食料需給は需要増と複合リスクで不安定化している。
  • 日本の供給熱量ベース総合食料自給率は2024年度に38%だった。
  • 国内生産、備蓄、生産資材、輸入網を一体で強化している。
  • 食料供給困難事態対策法が2025年4月に施行された。

概要

世界の食料需給は、開発途上国を中心とする人口増加と所得向上、バイオ燃料需要、気候変動、自然災害、感染症、紛争、輸出国への依存によって変動しやすい。2025/26年度は生産量が消費量を上回る見込みだが、中国を除く在庫率は低く、不作時には不足と価格高騰が起こりやすい。

2025/26年度の穀物生産量は29億8千万t、消費量は29億6千万t、世界の期末在庫率は26.8%の見込みである。

日本の供給熱量は国産38%、輸入62%で、輸入先上位3か国を含めると供給熱量の約8割を占める。2024年度の供給熱量ベース総合食料自給率は38%、生産額ベースは64%、摂取熱量ベースは46%だった。

基本計画は2030年度を目標年度として、供給熱量ベース45%、生産額ベース69%、摂取熱量ベース53%を掲げ、国内生産の拡大と農地・人・水・生産資材の有効活用を進める。

世界の食料価格は2022年のロシアによるウクライナ侵略後に上昇し、その後下落した品目もあるが、穀物などは2008年以前を上回る水準で推移している。農林業は温室効果ガス排出と水利用の面でも環境負荷が大きく、持続可能性、人権、企業の責任ある行動が供給政策の要素になっている。

主要数値

2025/26年度の世界の穀物生産量
29億8千万t
2025/26年度の世界の穀物消費量
29億6千万t
中国を除く世界の期末在庫率
13.5%
日本の供給熱量ベース総合食料自給率
2024年度に38%
食料自給率の目標年度
2030年度
食料自給率の目標(供給熱量ベース)
45%
国内資源由来肥料割合の目標
2030年までに40%
肥料原料備蓄の目標
2027年度までに年間需要量の3か月分
政府備蓄米
100万t程度
食料供給困難兆候の判断目安
特定食料の供給が平年比で全国的に2割以上減少

影響

消費者にとっては、輸入価格、物流費、為替や国際情勢の変化が食品価格と供給安定性に波及する。将来の食料輸入に不安があると答えた消費者は80.6%で、気候変動や自然災害を主な理由に挙げる回答が32.1%だった。

企業には、原材料の調達先変更、商品設計の見直し、価格転嫁、在庫確保、情報収集など、供給網の強靱化が求められる。外国産農林水産物の調達で価格上昇を経験した食品企業は64.1%、対策として価格転嫁を挙げた企業は68.5%だった。

農業者には、担い手減少・高齢化、気候変動、生産資材費と燃料費の上昇への対応が必要になる。一方、国内資源肥料、国産飼料、スマート農業、省エネルギー設備、品種改良への支援は、収益性と持続性を高める機会となる。

地域・政策運営では、国の備蓄と輸入政策に加え、地方公共団体による物価高騰対策、農業水利施設の省エネ化、地域資源循環、産地と実需者の連携が重要になる。重点支援地方交付金では、2024年度に農林水産業分野1,959事業、815億円が対象となった。

国際面では、特定国への依存を抑えながら、港湾・集荷施設への投資、輸入先との政府間対話、EPA・FTA、国際ルール形成、持続可能性と人権への対応を組み合わせる必要がある。

詳細

世界の品目別生産では、2025/26年度に小麦8億4千万t、とうもろこし13億t、米5億4千万t、大豆4億3千万tが見込まれる。生産シェアは小麦の主要国で69.5%、とうもろこしで78.4%、大豆で90.6%を占め、輸出国の動向が国際市場を左右する。バイオ燃料需要も増え、2034年のバイオエタノール消費量は1億5,646万kL、バイオディーゼルは8,124万kLの見通しである。

国内生産では、麦・大豆等の生産性向上、畑地化、基盤整備、輪作、多収品種、スマート農業を推進する。野菜は加工・業務用需要への対応、果実は園地の集積・集約化と省力樹形、新規就農者の確保が重点となる。畜産では、牛群転換、経営継承、ロボット・AI・IoT、国産飼料、堆肥循環、アニマルウェルフェア、畜産GAPを組み合わせる。

肥料原料は輸入依存度が高く、りん酸アンモニウムの中国依存は90%から72%へ低下した。2026年3月末時点の備蓄は、りん酸アンモニウムが2.4か月分、塩化加里が3か月分である。飼料は2024年度に2,367万7千TDNtが供給され、自給率は26%、輸入飼料穀物は1,310万t、備蓄は約100万tだった。

政府は、肥料使用量に占める国内資源割合を2021年の25%から2030年までに40%へ高める。食料供給困難事態対策法では、平時から需給情報、備蓄、輸入、供給網を管理し、兆候段階では政府対策本部を設置して事業者に自主的な要請を行う。事態が深刻化した場合は、一定規模以上の事業者に出荷・輸入・生産計画の届出を指示できる。

同法の基本方針は、特定食料の供給が平年比で全国的に2割以上減少、またはそのおそれがある場合を兆候判断の目安とする。最低限必要な食料供給が確保できないおそれがある段階では、供給熱量が1人1日当たり1,850kcalを下回るおそれを基準にする。政府は米を100万t程度備蓄し、食糧用小麦は外国産需要量の2.3か月分、飼料穀物は約1か月分を備蓄する。

2025年の農産物輸入額は9兆8,431億円で、上位6か国の割合は約6割だった。小麦はカナダ、米国、豪州の上位3か国に99.8%を依存し、とうもろこしと大豆も上位2か国への依存が8割以上に達する。政府はブラジル、米国などとの対話、港湾機能の強化、海外施設投資、輸入事業者との情報共有を進める。

国際戦略では、2025年12月末時点で世界のEPA・FTA等は417件、日本は2026年3月末時点で22のEPA・FTA等が発効済・署名済である。日本は輸入安定化だけでなく、輸出先の多角化、国際基準、持続可能な食料システム、人権デューディリジェンス、途上国との農業協力も進める。

政策全体は、国内生産を増やせば解決するという単一策ではなく、農地・人材・技術・資材の基盤強化、官民の備蓄、輸入先と物流の分散、危機時の段階的対応、国際協力を連動させ、平時から不測時まで供給を維持する構成になっている。

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