米の価格高騰を検証し、安定供給へ制度・生産政策を再構築|第7章東日本大震災・自然災害からの農林水産業の復旧復興と防災
概要
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故、近年の地震・豪雨等による農林水産業の被害と復旧状況を整理し、農地整備、営農再開、担い手確保、安全性確保、損害賠償などの取組を示す。併せて、能登半島地震等への対応、激甚災害による負担軽減、国土強靱化、流域治水、渇水・高温対策、農業版BCP、家庭備蓄を通じた災害への備えを説明する。
要点
- 震災復旧は農地復旧から営農再開と地域産業の再構築へ段階が広がっている。
- 原子力被災地域では営農再開が進む一方、帰還状況や担い手不足が課題として残る。
- 自然災害への政策は、復旧支援と施設整備、地域連携、事業継続を一体化している。
- 農地・農業水利施設の防災機能と家庭備蓄が、食料安定供給の基盤として位置付けられている。
概要
平成23(2011)年3月11日の東日本大震災は、岩手県、宮城県、福島県を中心とする広域に、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響を含む甚大な被害をもたらした。政府は、令和3(2021)年度から令和7(2025)年度までの第2期復興・創生期間に続き、令和8(2026)年度から令和12(2030)年度までの5年間を第3期復興・創生期間と位置付け、農業分野を含む復興を継続している。
東日本大震災の農業関係被害額は9,692億円、農林水産関係の合計は2兆4,484億円である。復旧対象農地1万9,610haのうち、令和8(2026)年3月末時点で1万8,960ha、97%が営農可能となった。復旧対象には、主要な排水機場96か所、農地海岸122地区、農業集落排水施設401地区が含まれる。
岩手県、宮城県、福島県では、令和7(2025)年3月末までに整備計画面積8,380haの98%に当たる8,240haで農地の大区画化が完了し、そのうち6,850haが50a以上の区画となった。復旧にとどまらず、生産基盤の再編を通じて地域農業の再建を進めている。
主要数値
- 第3期復興・創生期間
- 令和8(2026)年度から令和12(2030)年度までの5年間
- 農業関係被害額
- 9,692億円
- 農林水産関係被害額合計
- 2兆4,484億円
- 復旧対象農地
- 1万9,610haのうち1万8,960ha、97%
- 農地大区画化の整備計画面積
- 8,380haのうち8,240ha、98%
- 大区画化で50a以上となった面積
- 6,850ha
影響
原子力被災12市町村では、営農再開農地面積が令和6(2024)年度末に前年度から546ha増えて9,145haとなった。しかし、市町村ごとの進捗は避難指示解除の時期や帰還状況に左右され、帰還困難区域を抱える町村ほど再開の遅れが課題となっている。令和12(2030)年度までには、平成23(2011)年12月末時点で営農を休止していた1万7,298haのうち約1万1千haでの再開が目標である。
福島県全体の農業産出額は平成22(2010)年の2,330億円から令和5(2023)年に2,163億円まで約9割に回復した一方、原子力被災12市町村は平成18(2006)年の391億円から179億円にとどまり、被災前の約5割である。地域経済の回復には、農地復旧だけでなく、加工・販売を含む産地形成が必要となっている。
安全性確保と風評対策は、生産者、消費者、流通の信頼に直結する。令和7(2025)年度には、栽培・飼養管理が可能な農畜産物で放射性物質の基準値超過がなく、令和8(2026)年3月公表調査で福島県産品の購入をためらう人は4.0%程度だった。関係府省は「知ってもらう・食べてもらう・来てもらう」を柱に情報発信し、検査、GAP認証、販売促進を組み合わせている。
詳細
営農再開を支えるため、農林水産省は農地の集積・集約化、大区画化、担い手の確保・育成を市町村ごとに支援し、令和2(2020)年度から職員派遣による人的支援も実施している。営農休止農地では、整備または検討対象が4,245ha、令和6(2024)年度末の整備完了が2,754haとなった。令和2(2020)年から6年間の新規就農者は300人以上で、震災後には市町村外から32法人が農業へ参入した。
地域外の担い手と農地のマッチング、加工・販売一体型の産地づくりも進められている。福島県楢葉町の株式会社相馬屋は令和5(2023)年にパックご飯工場を建設し、同年11月から稼働した。1時間当たり8千食を製造でき、原子力被災12市町村産の米を使う。調査では農業者2,677者のうち、再開済み45.2%、再開意向ありが5.7%、意向なし39.6%、意向未定9.6%だった。
能登半島地震と奥能登豪雨では、令和8(2026)年3月末時点の農林水産関係被害額がそれぞれ3,818億円と627億円となった。豪雨では約400haに土砂・流木が堆積し、約170haで復旧が完了した。奥能登4市町では令和7(2025)年に約2千haの水田で作付けが行われた。
近年の災害復旧では、令和5年の大雨等の対象6,137件のうち5,016件、令和6年の大雨等の対象1,327件のうち427件が令和8(2026)年3月末までに完了した。令和7(2025)年の農林水産関係被害額は2,035億円で、激甚災害指定により農地・農業用施設等の国庫補助率が引き上げられ、自治体や被災農業者の負担が軽減された。
国土強靱化では、ため池のハード・ソフト対策、農業水利施設や集落排水施設の耐震化、卸売市場の防災・減災、園芸産地の事業継続、食品サプライチェーンの連携などを進めている。令和8(2026)年3月末時点で、全国109の一級水系の119プロジェクト中110に農地・農業水利施設の活用が位置付けられた。田んぼダムの取組面積は令和6(2024)年度に9万9千ha、令和7(2025)年度出水期には農業用ダム148基で洪水調節容量を確保した。
渇水・高温対策では、農林水産省がMAFF-SATを19県に延べ240人・日派遣し、ポンプを8府県で延べ1,333台・日貸し出し、給水車を4県で延べ29台・日手配した。また、26府県の394市町村に応急ポンプ、給水車、番水等の経費を補助した。農業版BCPでは、チェックリストやフォーマット、ハウス補強、融雪装置、園芸施設共済への加入を促進している。家庭には最低3日分、可能なら1週間分の食品・飲料水の備蓄を求め、過度な買いだめを防ぐ情報発信も行っている。