令和8年版国土交通白書の概要|第1章人口減少下での成長を支えるインフラ再構築の課題と政策
概要
我が国では人口減少により労働投入量への依存が難しくなる中、資本投入量と全要素生産性を高めることが持続的成長の鍵となる。社会資本は短期の需要創出と、中長期の安全・安心、生活の質、生産性向上という効果を持つ一方、未整備区間、老朽化、渋滞、観光需要の偏在、新技術導入の遅れが課題である。白書は、更新・機能強化、データ活用、AI・ロボット導入、人材投資、官民連携を通じ、時代に合ったハード・ソフトのインフラへ再構築する必要性を示している。
要点
- 人口減少下の持続的成長には、資本投入量と全要素生産性の向上が重要である。
- 2024年度の名目GDPは642.4兆円である。
- 2025年の訪日外国人旅行消費額は約9.5兆円で、自動車完成品に次ぐ規模となった。
- インフラ老朽化と維持更新費の増加は、新規投資と機能維持の両面で課題となっている。
- 公共投資で優先すべき課題として、事業者の70.7%が老朽化対策・維持管理を挙げた。
概要
本白書のインフラは、国土交通省所管の物理的な社会資本に加え、民間事業者等が提供する交通サービスを含むハード・ソフトの基盤を指す。
名目GDPは1970年度以降およそ5年ごとに100兆円ずつ増え、1992年度に500兆円を超えた後、30年以上にわたり500兆円台前後で推移した。2023年度には600兆円を超え、2024年度は642.4兆円となった。
物価高を背景に名目GDPが増加する一方、実質GDPは実質賃金や購買力の低下により横ばいが続き、2024年度は名目642.4兆円、実質552.3兆円であった。
2024年度の名目GDPの内訳では、民間最終消費が340.4兆円で53.0%、民間企業設備が119.2兆円で18.6%、政府最終消費が129.1兆円で20.1%、公的固定資本形成が32.0兆円で5.0%を占めた。
潜在成長率は1980年代には前年度比4%超で推移したが、1990年代以降低下し、2000年以降は1%以下で推移している。成長会計では、労働投入量、資本投入量、全要素生産性が成長の三要素とされる。
総人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少へ転じ、2050年には1億469万人、2070年には8,700万人と推計される。高齢化率は2050年37.1%、2070年38.7%と見込まれる。
社会資本整備には、公共投資による生産・雇用・所得を生む短期のフロー効果と、整備後に継続して発現する安全・安心、生活の質、生産性向上のストック効果がある。
主要数値
- 2024年度の名目国内総生産
- 642.4兆円
- 2025年の訪日外国人旅行消費額
- 約9.5兆円
- 2070年の総人口推計
- 8,700万人
- 2030年度の再生可能エネルギー電源構成比目標
- 36〜38%
- 2025年3月公表の南海トラフ巨大地震の被害想定(生産・サービス低下を含む)
- 約270.3兆円
- 首都圏空港の年間発着容量目標
- 約100万回
- 英国インフラ10カ年戦略の投資額
- 7,250億ポンド
- ドイツのインフラ・気候中立のための特別基金規模
- 5,000億ユーロ
影響
交通ネットワークや物流拠点へのアクセス、安全性は事業用地選定に影響する。製造業・運輸業の調査では、48.4%が充実した交通ネットワークを最重視し、企業の国内投資や立地を左右する基盤となっている。
建設業就業者は1990年代の約698万人から2024年度の約462万人へ減少した。人手不足の下で、インフラ整備・維持と物流サービスを継続するには、作業の省力化と人材の再配置が重要になる。
自然災害は人命だけでなく資産と生産・サービスに大きな損失をもたらす。南海トラフ巨大地震では最大約29.8万人の死者、直接被害約224.9兆円、被害総額約270.3兆円が想定され、防災・国土強靱化は経済活動の継続性に直結する。
訪日需要の拡大は外貨獲得と地域雇用を生む一方、2025年の外国人延べ宿泊者数は三大都市圏が約67%を占めた。混雑、住民生活への影響、旅行者満足度低下を抑え、需要を地域へ分散することが課題となる。
道路渋滞による時間ロスは年間約370万人分の労働時間に相当する。物流事業者等では57.8%が輸送時間ロスを課題に挙げており、渋滞緩和と代替経路の確保は企業の生産性とドライバー負担の軽減に影響する。
国民・事業者はいずれも老朽化対策・維持管理を公共投資の最優先課題とみている。国民では44.8%、事業者では70.7%が選択しており、限られた財源で安全性とインフラ機能を維持する政策運営への期待が強い。
詳細
1988年から2025年にかけて、新幹線は1,832kmから2,956km、高規格幹線道路は4,387kmから12,307kmへ伸び、滑走路長2,000m以上の空港は33箇所から66箇所、下水道等の汚水処理人口普及率は62%から94%となった。一方で、高規格道路や整備新幹線には未整備区間が残る。
国際航空需要の取込みに向け、羽田・成田では成田空港の滑走路新増設などを通じ、年間発着容量約100万回の実現を目指す。港湾では2024年のコンテナ取扱量が上海5,151万TEU、シンガポール4,112万TEU、釜山2,440万TEUであり、アジアのハブ港との差が課題である。
国土交通省所管の12分野では、予防保全を基本としても将来の維持管理・更新費は20年後、30年後に最大約1.3倍へ増加する見込みである。既存ストックに必要な予算の比重が高まれば、新規ストック投資が抑制される懸念がある。
建設後50年以上の社会資本は2040年3月までに、道路橋約75%、トンネル約53%、河川管理施設約64%、水道管路約41%、下水道管渠約35%、港湾施設約66%に達する見込みである。管理負担の増大に対し、市区町村の土木部門職員は2024年に約9万人である。
全道路の自由走行速度は61km/hだが、渋滞等により約4割の時間ロスが生じている。事業者が物流効率化のため最も期待するインフラは高速道路網の整備・拡充で34.0%、物流インフラ整備への期待はトラックドライバーの労働時間短縮・負担軽減が29.1%である。
再生可能エネルギーの電源構成比は2011年度約10.4%から2024年度約23.1%へ上昇した。2030年度の目標は36〜38%であり、エネルギー自給率が低い中で導入拡大を進める方針である。
2019年から2023年の政府AI関連投資は、日本が10億ドル、米国が329億ドルである。2025年の民間AI投資は日本が11.1億ドル、米国が2,858.8億ドルであり、建設業・運輸業ではAI導入済みの事業者は10.5%にとどまる。
政府は日本成長戦略でAI・半導体、造船、港湾ロジスティクス、防災・国土強靱化など17の戦略分野の官民投資ロードマップを実行する方針である。第6次社会資本整備重点計画と第3次交通政策基本計画は、ともに2030年度までを計画期間として2026年1月に閣議決定された。
海外では長期投資計画が進む。英国のインフラ10カ年戦略は2025年から2035年に7,250億ポンド、ドイツの特別基金は2025年から2037年に5,000億ユーロを投じる。EUのTEN-Tコアネットワークは、計画どおり整備された場合、2030年のEU全体GDPを追加投資なしの場合より約1.6%高める見込みとされる。