中東情勢緊迫化が世界経済と国際商品市場に及ぼした影響|第2章2026年前半の世界経済:中東情勢とAI投資が左右する米国景気
概要
2026年前半の世界経済では、中東情勢によるエネルギー価格・物価上昇が家計や企業活動を圧迫する一方、米国では旺盛なAI関連投資が景気拡大を支えた。中国は内需の弱さから減速し、韓国・台湾・インドなどはAI需要や内需を背景に回復・拡大した。欧州では南欧諸国を中心に持ち直しがみられた。米国では低中所得層の購買力や住宅取得環境が悪化し、通商政策の変更や移民政策も雇用・貿易・投資に影響した。
要点
- 米国景気は物価高の逆風下でもAI関連投資を軸に拡大を続けた。
- 低中所得層では実質所得と生活必需品価格の悪化が消費の重しとなった。
- 中国は内需の伸び悩み、アジアの一部と欧州は回復・拡大を示した。
- 関税制度の司法判断と代替措置が企業の貿易・投資判断を左右した。
概要
本章は、中東情勢の動向と影響を踏まえ、2026年前半の世界経済を主要国・地域別に整理している。米国では消費の伸びが鈍化した一方、AI関連需要を背景に民間設備投資が拡大し、景気の拡大基調が維持された。中国では消費と固定資産投資が弱く、生産活動と財輸出が相対的に強いものの、内需の停滞を背景に景気は緩やかに減速した。
米国の2026年1-3月期実質GDP成長率は前期比年率2.1%、GDPギャップは1.0%程度の需要超過だった。景気を支えたのは個人消費よりもAI関連投資であり、物価上昇が家計の購買力を削る中で、成長の構成は投資に偏っている。
アジアでは、世界的なAI需要を背景に韓国が緩やかに回復し、台湾は外需を中心に拡大した。インドネシアは内需に支えられて緩やかに回復し、インドは景気が拡大した一方、タイは持ち直しながらも消費の伸びが高まらなかった。欧州ではスペインやイタリアなど南欧諸国がユーロ圏の持ち直しをけん引し、英国も回復した。
主要数値
- 米国実質GDP成長率(2026年1-3月期、前期比年率)
- 2.1%
- 米国GDPギャップ(2026年前半)
- 1.0%程度の需要超過
- 米国生活必需品の物価上昇率(2026年春)
- 5.8%
- 米国実質賃金上昇率(2026年5月)
- マイナス0.7%
- 米国貯蓄率(2026年4月)
- 3%
- 米国クレジットカード残高の90日以上延滞率(2026年1-3月期)
- 13.1%
- ハイパースケーラー設備投資額(2025年)
- 4,115億ドル(前年比72%増)
- ハイパースケーラー設備投資額(2026年予測)
- 7,639億ドル(前年比86%増)
- ハイパースケーラー設備投資の民間設備投資全体に占める割合(2026年予測)
- 17.1%
- 米国実効関税率(2026年4月)
- 6.7%
影響
家計への影響は所得階層によって大きく異なる。株高は株式保有額の大きい高所得層の消費を下支えしたが、資産が一部に集中するほど消費押上げ効果は弱まり得る。低中所得層では、食料品、住居費、光熱費、ガソリン、医療費など生活必需品の負担割合が高く、物価高と所得環境の悪化が実質的な購買力を圧迫した。
住宅市場では、30年固定金利6%で中央値41.4万ドルの標準的住宅を購入することが、中所得層を含む65%の家計にとって困難とされた。価格上昇と金利高は若年層の初回購入を阻み、住宅取得の困難さを社会問題化させている。
AI投資の集中は成長を押し上げる一方、雇用と地域インフラに二面性をもたらす。AIを理由とする人員削減公表数は2026年1-5月の5か月間で8.8万人に達し、データセンターの集中地域では電力需要や電気代、水利用をめぐる負担が生じ得る。2026年1-3月期には、住民の反対により少なくとも75件、約1,300億ドル相当の建設プロジェクトが中断または遅延した。
企業にとっては、関税変更、移民労働力の減少、エネルギー価格、不確実性が採用や投資の判断材料となった。北米ではUSMCAの共同見直しが合意に至らず、協定を前提に構築されたサプライチェーンの継続性が不透明になった。政策運営上は、関税による物価上昇を抑えつつ、国内生産、エネルギー供給、住宅供給をどう促すかが課題となる。
詳細
米国の個人消費は2025年後半から財消費を中心に増勢が鈍化した。サービス消費は個人消費全体の69%、非耐久財は20%、耐久財は11%を占める。2026年春には物価上昇が賃金上昇を上回り、実質賃金上昇率は3年ぶりにマイナスへ転じた。雇用者数は2026年3月以降3か月連続で増加したが、求人や採用は低調で、失業率は4.3~4.4%にとどまった。
個人所得税の還付では、原則4月15日が申告期限で、電子申告から還付まで約3週間を要する。2026年5月時点の平均還付額は前年より337ドル増え、還付の進捗率は約9割だった。ただし、還付を受ける予定者の使途は「貯蓄」が52%で、消費より家計補填を優先する姿勢が示された。
AI関連投資は、データセンター、情報機器、ソフトウェア、冷却設備、電力インフラ、高速ネットワークに集中している。ハイパースケーラーはAlphabet、Amazon、Meta、Microsoft、Oracleの5社で、データセンターはバージニア州とテキサス州に特に集中した。企業収益が堅調な一方、AI需要への依存が景気の変動要因となっている。
通商政策では、米連邦最高裁が2026年2月20日にIEEPAに基づく関税措置を違法と判断し、2月24日に徴収が停止された。政府は代替措置として通商法122条に基づく10%の追加関税を150日間発動し、301条調査では強制労働産品の輸入禁止の実施状況に応じて10%または12.5%を課す案を示した。IEEPA関税の総額は1,660億ドルで、還付は未清算分などを対象に3段階で進められている。
USMCAは2020年7月1日に発効し、2026年7月に共同見直しを迎えた。協定の条文上は2036年に自動失効するが、3か国が継続に合意すれば合意時点から16年間延長される。メキシコとの交渉では完成車の域内付加価値基準を75%から82%へ引き上げ、うち50%を米国分とする提案が示された。
品目別関税では、医薬品に2026年7月31日から100%の追加関税を課す方針が示されたが、米国内工場建設計画を承認された企業には2030年4月1日まで20%、薬価に関するMFN協定を結ぶ企業には2029年1月20日まで0%とする緩和措置がある。ジェネリック医薬品などは対象外とされた。