令和8年版国土交通白書の概要|第8章ユニバーサル社会の実現と安全・安心を支える国土交通施策
概要
令和8年版国土交通白書は、ユニバーサル社会の実現、自然災害対策、建築物・交通の安全、危機管理・安全保障を体系的に整理している。バリアフリー化では、公共交通、住宅、建築物、歩行空間、公園を対象に、基準適合、施設整備、支援制度、情報活用を組み合わせて取組を進める。子育て世帯や高齢者、障害者等への住宅・移動支援、ジェンダー主流化、テレワークも推進する。自然災害対策では、気候変動による水害・土砂災害の激甚化、大規模地震、津波、火山、高潮、雪害、複合災害を想定し、流域治水、耐震化、避難情報、施設整備、TEC-FORCE等による対応を強化する。交通安全では、運輸安全マネジメント、鉄道・船舶・航空・道路の安全対策、事故原因究明、被害者支援を推進する。さらに、テロ、海上犯罪、サイバー攻撃、北朝鮮情勢、感染症や家畜伝染病にも、関係機関との連携と情報・輸送基盤の強化で対応する。
要点
- ハード・ソフトを組み合わせ、誰もが利用しやすい生活・移動環境を整備する。
- 気候変動と複合災害を前提に、流域全体と社会全体で防災・減災を進める。
- 交通安全は、事業者の管理、施設整備、データ活用、事故原因究明を連動させる。
- 危機管理では、国際連携、官民協働、情報通信、重要インフラの強靱化を重視する。
概要
白書は、安全・安心社会の構築を、包摂的な生活環境、防災・減災、建築・交通の安全、危機管理・安全保障という複数の政策領域から捉えている。背景には、高齢化、少子化、障害者等の移動・居住上の制約、気候変動による災害の激甚化・頻発化、大規模地震の切迫、インフラの老朽化、国際的なテロやサイバー脅威がある。
施策の共通基盤は、施設や構造物を整備するハード対策だけでなく、基準、計画、訓練、情報提供、支援制度、関係機関の連携を組み合わせることで、平時の利便性と災害・事故時の対応力を同時に高める考え方である。
ユニバーサル社会の分野では、バリアフリー法に基づく新設施設等への移動等円滑化基準適合義務、既存施設への適合努力義務、事業者の教育訓練や取組計画の報告・公表を組み合わせている。令和8年度からは、5年間を目標期間とする新たなバリアフリー整備目標が施行された。
自然災害対策では、河川・下水道・砂防・海岸・道路・上下水道・港湾・空港・鉄道等を横断して、予防、避難、応急復旧、復興、施設の長寿命化までを一連の防災・減災政策として展開している。
主要数値
- 住宅セーフティネット登録住宅(令和7年度末時点)
- 960,737戸
- 流域治水プロジェクト2.0の更新対象(令和6年度まで)
- 全国109の1級水系
- 南海トラフ地震の今後30年以内の発生確率(令和8年1月1日現在)
- 60~90%程度以上
- 土砂災害のおそれがある箇所(令和7年3月末時点)
- 約70万か所
- 土砂災害の年間平均発生件数(平成27年~令和6年)
- 1,524件
- 土砂災害発生件数の過去10年比較
- およそ1.5倍
- 洪水予報河川・水位周知河川(令和7年3月末現在)
- 洪水予報河川436河川、水位周知河川1,813河川
- 中小河川の洪水浸水想定区域指定・公表済み割合(令和7年7月末現在)
- 約79%
- 洪水ハザードマップ作成済み市区町村割合(令和7年7月末現在)
- 約67%
- 火山リアルタイムハザードマップの運用対象(令和7年度末時点)
- 16火山
影響
住民にとっては、駅・道路・住宅・公園・公共交通の利用障壁が下がり、子育て世帯、高齢者、障害者、低額所得者などが地域で暮らし続けやすくなる。ベビーカー利用環境、子育て住宅、居住支援、テレワーク拠点の整備は、育児と仕事の両立や孤立防止にもつながる。
企業には、施設のバリアフリー対応、従業員や利用者への安全配慮、災害時の事業継続、輸送・物流の代替性、サイバーセキュリティへの対応が求められる。一方、支援制度、データ提供、官民協定、技術支援は、企業が安全性と事業継続性を高めるための基盤となる。
地域には、避難場所・避難路、防災公園、流域の貯留、災害伝承、地域交通、官民の訓練を通じて、住民が自ら危険を理解し行動する防災力が求められる。自治体は、土地利用、住宅、福祉、交通、河川、医療・教育施設を横断した計画と実施体制を整える必要がある。
政策運営では、国、自治体、事業者、住民、研究者、関係省庁が役割を分担し、PDCA、訓練、監査、データ分析、事故調査を通じて継続的に施策を改善する方向が明確になっている。防災・安全政策は、単独施設の整備から、ネットワークと情報を含む社会全体の強靱化へ広がっている。
詳細
公共交通では、旅客施設の新設・大規模改良、車両等の新規導入に基準適合を義務付け、ノンステップバス、リフト付きバス、福祉タクシー、旅客船ターミナルや鉄道駅の整備を支援する。令和7年4月には、JR旅客会社、大手民鉄全社等で精神障害者割引の導入が実現した。住宅・建築物では、住宅金融支援機構の融資、賃貸住宅の設計標準、公営住宅等の標準仕様、建築設計標準、建築物の基準や容積率特例を活用する。
歩行空間では、幅の広い歩道、段差・傾斜・勾配の改善、踏切対策、無電柱化、視覚障害者誘導用ブロックを進め、都市公園では段差解消や利用しやすいトイレを整備する。ジェンダー主流化では令和7年5月に推進本部を設置し、同年10月から民間企業20名強と国土交通省職員が参加するネットワーク会議を開催した。
子育て支援では、子育て環境に優れた公営住宅、空き家活用、こどもの人数に応じた住宅ローン金利引下げ、居住支援法人、公的賃貸住宅と子育て施設の一体整備を進める。公園の遊び場や安全対策、高速道路のサービスエリア・道の駅の子育て応援施設、公共交通のベビーカースペース、乳幼児設備、子育てタクシーも対象となる。テレワークは毎年11月をテレワーク月間として普及を図る。
高齢者等の居住支援では、住宅確保要配慮者を拒まない登録住宅、居住サポート住宅、居住支援協議会、サービス付き高齢者向け住宅を組み合わせる。輸送では、地域公共交通確保維持改善事業補助金や税制特例により、ノンステップバス、ユニバーサルデザインタクシー、福祉タクシーの導入を促す。歩行空間の移動支援では、令和7年7月にオープンデータ活用のワーキンググループを設置し、令和8年1月にシンポジウムを開催した。
防災・減災では、国土交通省防災・減災対策本部と総力戦で挑む防災・減災プロジェクトを軸に、毎年度テーマを設定して予算、制度改正、実施、検証を行う。水災害対策は、気候変動を踏まえた治水計画、流域治水、堤防・河道掘削・遊水地・放水路・ダム、雨水貯留浸透、土地利用誘導、避難情報を組み合わせる。
水害への備えとして、地下空間の活用、再度災害防止、内水対策、水防訓練、自衛水防、洪水予報・水位情報、洪水浸水想定区域、ハザードマップ、マイ・タイムライン、XRAIN、水害リスクライン、洪水キキクル、長寿命化計画を整備する。要配慮者利用施設には避難確保計画と訓練が求められ、令和7年12月改正では氾濫等の通報が明確化された。
地震・津波・火山・高潮・雪害では、南海トラフ等の対策計画、住宅・建築物や公共施設の耐震化、津波の多重防御、火山砂防、活火山の監視、高潮浸水想定区域、協働防護、道路の予防的通行止め、雪崩防止施設、防災気象情報を組み合わせる。令和8年5月下旬からは、河川氾濫、大雨、土砂災害、高潮について警戒レベルに対応した新たな防災気象情報を運用する。
危機管理では、TEC-FORCE、リエゾン、JETT、排水ポンプ車、衛星通信、ドローン、DiMAPS、実践的な防災訓練、業務継続計画を活用する。令和7年度は17災害に延べ約3,000人・日を派遣し、公共土木施設の被害は令和8年3月末時点で約2,339億円、5,567か所と報告された。
交通安全では、運輸安全マネジメントにより安全統括管理者の選任と安全管理規程の作成を求め、令和7年度に262者を評価し、国のセミナーは3,466人、認定セミナーは5,527人が受講した。鉄道では踏切対策、ホームドア、施設の点検・更新を進め、ホームドアは令和8年度から令和12年度までに全体4,000番線、利用者10万人以上の駅で900番線を目標とする。
道路では、ゾーン30プラス、通学路点検、ビッグデータ、高速道路の4車線化、無電柱化、道路橋・トンネルの定期点検を進める。令和7年の交通事故死者数は2,547人で、前年比116人、4.4%減となった。道路施設は約73万橋の道路橋と約1万本の道路トンネルがあり、次回点検までに措置が必要な橋梁は約6万橋、地方公共団体管理橋梁の修繕完了率は令和6年度末で約32%である。