ドイツ:適正な賃金とは? ―外国人就労をめぐる雇用エージェンシーの判断が議論呼ぶ
概要
2025年1月、ドイツの印刷会社「SV Druck」が難民申請中の外国人2名を法定最低賃金(時給12.82ユーロ)で雇用しようとしたが、地元雇用エージェンシーが「賃金水準が不適正」として就労許可を却下した事件が議論を呼んでいる。同社の既存ドイツ人従業員も同じ基本賃金で働いているが、雇用エージェンシーは同地域の「出荷アシスタント」の標準賃金(時給14ユーロ)に達していないことを理由に許可を拒否した。興味深いことに、同社のドイツ人従業員は夜勤手当により実質時給が14ユーロを超えることが多いが、当局は基本賃金のみを基準として判断している。
制度の背景と課題
滞在法第39条に基づき、難民申請中の外国人の就労には連邦雇用エージェンシーの同意が必要で、その判断には「賃金アトラス」に示される地域相場が参照される。この賃金アトラスは約4000の職種について、法定社会保険加入者の給与データに基づく中央値賃金を提示するデータベースで、同地域の「印刷アシスタント」は時給15.98ユーロ、「倉庫・輸送アシスタント」は時給16.52ユーロとされている。この制度は外国人労働者の搾取防止と労働市場保護を目的とするが、現実には「ドイツ人と同条件でも外国人には許可が下りない」という矛盾が生じている。2024年には約9万件の就労申請が却下され、うち約2万7000件が「賃金不足」を理由としていた。
類似事例と広がる問題
この問題はSV Druck社に限らず、ハンブルクの都市計画会社「Argus」がアゼルバイジャン出身の製図技師を同じ資格のドイツ人従業員と同じ賃金で雇用しようとしても「賃金が低すぎる」として却下されたり、ベルリンのVR制作会社がインド出身のゲームデザイナーを月額2500ユーロで雇用しようとして却下されるなど、各地で散見されている。
政策的含意
この事例は外国人労働者保護を名目とした制度が、実際には就労機会を制限し、労働力不足解決を阻害する皮肉な結果を生んでいることを浮き彫りにしている。「適正賃金」の判断基準の見直しが急務であり、外国人労働者の社会統合と労働市場参加促進のためには、より柔軟で現実的な制度運用が求められる。特に、企業規模や組織構造、インフレなどの経済要因を含めた複合的な視点での判断が必要とされている。