外国人の流入削減策に介護労働者の受け入れ停止など―移民制度改革案
イギリス政府が2025年5月に発表した外国人流入削減を目的とする移民制度改革白書について、その背景、内容、影響を包括的に分析したものです。
EU離脱以降、イギリスでは外国人労働者や留学生の流入が急激に増加しており、2023年6月までの12か月間の純流入数は90万6000人と2019年(22万4000人)から4倍に増加し、記録的な水準に達しました。この急増の主要因は、労働者受け入れ職種レベルの大卒相当から中等教育修了相当への引き下げ、給与水準要件の3万ポンドから2万5600ポンドへの緩和、2022年の介護労働者受け入れ開始などの制度緩和策にありました。
政府の改革案では、就労ビザについて受け入れ可能職種レベルをEU離脱前の大卒相当(レベル6)に戻し、給与基準も引き上げることとしています。特に注目すべきは、保健・介護ビザによる介護労働者の新規受け入れを停止し、2028年までの過渡的措置として既存労働者のビザ延長や他の就労ビザからの転換のみを認める方針です。大卒相当未満の職種については、諮問機関が長期的不足状況と認め、業界が国内労働者の訓練等による労働力調達プランを作成している場合のみ、一時的に受け入れを認める厳格な条件が設定されました。
就学ビザについても厳格化が図られ、教育機関に対するコンプライアンス評価の厳格化、高等教育機関の留学生受け入れ収入への負担金課税の検討、大卒者ビザによる滞在期間の2年から18か月への短縮などが盛り込まれています。また、英語能力要件の全般的引き上げも予定されており、労働者の英語能力要件引き上げ、帯同家族への入国時基礎英語能力基準設定、永住権申請要件としての居住期間を5年から10年への延長などが含まれています。
政府は一連の施策による流入者数減少効果を合計9万8000人と試算しており、内訳は受け入れ可能職種レベル引き上げによる3万9000人、介護労働者受け入れ停止による7000人、就学関連制度改正による3万1000人となっています。2025年7月には職種レベル引き上げに伴う受け入れ可能職種の改定(約180職種削減)や介護労働者ビザによる新規受け入れ停止などが既に実施されました。
政策をめぐっては賛否が分かれており、介護業界や高等教育機関への影響懸念の声が多く、外国人労働者への搾取防止が十分考慮されていないとの批判もあります。研究者間でも評価は分かれ、一部は現実と乖離した政策として批判する一方、介護労働者受け入れ停止を必要な措置として評価する声もあります。
記事は、イギリスの移民制度改革が外国人流入削減と国内労働力育成の両立を目指す包括的な取組であり、その実効性と社会的影響について今後の検証が重要であることを示しています。