労働政策研究・研修機構(JILPT)がドイツ労働市場・職業研究所(IAB)の報告に基づき、ドイツの両親手当制度における実質価値の低下と少子化対策としての課題について分析したものです。
主要なポイント
1. 両親手当の実質価値27%低下問題
- 2007年制度導入以来、支給月額の上限(1,800ユーロ)と下限(300ユーロ)を一度も改定していない
- 物価上昇の影響により、2023年時点で実質価値が27%低下(2007年を100とした場合)
- 児童手当や年金などの他の社会保障給付と比較して価値低下が顕著
- IABは失業手当算定基準連動や物価上昇対応の見直しを提言
2. 少子化進行と制度の重要性拡大
- 2023年出生数は69万2,989人で前年比6%減、合計特殊出生率は1.46から1.35に低下
- 両親手当は保育施設拡充、児童手当拡充と並ぶ重要な親支援策として位置づけ
- 最高額受給者は制度開始時の5%から2021年には12%に増加
- 最低額受給者は27%から9%に減少し、所得層別利用パターンの変化を確認
3. 制度拡充による母親就業率と男性育児参加の向上
- 制度導入前の父親受給率3%が2008年に21.2%へ大幅改善
- 1~2歳未満子を持つ母親就業率が2006年35%から2023年46%に上昇
- 2~3歳未満では42%から63%へ大幅増加、18歳未満子を持つ母親の週平均労働時間も25時間から28時間に拡大
- パートナー月制度により最長14カ月受給可能で、男性の育児参加を促進
4. 両親手当プラスによる柔軟な働き方支援
- 2015年導入の両親手当プラスで時短勤務しながらの手当受給が可能
- 利用者数が年々増加し、2024年には母親42.3%、父親20.6%が利用
- パートナーシップ・ボーナス制度により週24~32時間の時短勤務者に追加手当支給
- 受給期間を最長28カ月まで延長可能で、早期職場復帰希望者を支援
5. 財政制約による実質的削減と政策転換
- 2024年4月以降、受給可能所得上限を夫婦合算30万ユーロから20万ユーロに引き下げ
- 2025年4月以降はさらに17万5,000ユーロに削減し、高所得層の受給資格を制限
- 同時受給期間を最長2カ月から1カ月に短縮(早産児・多胎児・障がい児は例外)
- 財政再建と支援適正化を理由とした実質的削減が将来的影響について懸念
記事は、両親手当が母親就業促進と父親育児参加に肯定的影響を与えてきたが、近年の実質価値低下と所得制限強化が今後の少子化対策効果に与える影響について注視が必要であると結論づけています。