ドイツのメルツ政権が、最短3年での帰化を可能にする「ターボ帰化」制度の廃止を含む国籍法改正案を閣議決定したことについて報告したものです。
国籍法改正案の概要
メルツ政権は2025年5月28日、「ターボ帰化」制度を廃止する国籍法改正案を閣議決定しました。アレクサンダー・ドブリント内務相(キリスト教社会同盟、CSU)は、今夏の成立を目指しています。この改正案では、特別な社会統合実績による在留期間3年での帰化制度(ターボ帰化)を廃止する一方、在留期間5年での帰化制度は継続されます。また、同日には、補完的保護対象者の家族呼び寄せを2年間禁止する別の法案も閣議決定されました。
ターボ帰化制度の背景
「ターボ帰化」制度は、ショルツ前政権下で2024年6月に施行された「国籍法現代化法(StARModG)」により導入されました。同法では、ドイツ国籍取得のための在留期間を従来の8年から5年へ短縮し、さらに教育・職業・市民活動での優れた実績や高度なドイツ語能力により、ドイツ社会への統合が特に進んでいると認められる場合には、3年での帰化も可能としました。また、出身国の国籍を保持したままドイツ国籍を取得することも可能になりました。メルツ政権は「ドイツ社会に持続的に溶け込むためには、十分な長期の在留期間が必要」として、この制度の廃止を決定しました。
記録的な帰化者数
連邦統計局が2025年6月10日に公表した統計によると、2024年にドイツで帰化した人の数は29万1,955人に達し、前年比46%増(9万1,860人増)となり、2000年の統計開始以来過去最多を記録しました。出身国別では、シリア出身者が最も多く全体の28%(8万3,150人)を占め、次いでトルコ(2万2,525人、8%)、イラク(1万3,545人、5%)、ロシア(1万2,980人、4%)、アフガニスタン(1万85人、3%)と続きます。
帰化までの滞在期間と制度利用状況
2024年の帰化者の平均滞在期間は11.8年で、前年の10.9年をやや上回りました。出身国により差があり、シリア出身者は平均7.4年と短く、2015-2016年の難民流入期に入国した人々が要件を満たして帰化する傾向が続いています。一方、トルコ出身者は平均23.1年と長期滞在者が多い状況です。2024年の帰化者のうち、特別な社会統合実績による短縮制度(ターボ帰化)を利用したのは7%にとどまり、86%は従来通りの滞在期間を経て帰化しました。連邦統計局は、記録的な帰化者数増加の要因として、滞在期間の短縮よりも重国籍保持を可能とした新制度の影響が大きいと分析しています。
移民の移住意向調査
労働市場・職業研究所(IAB)の調査によると、ドイツに住む移民の約4分の1(26%)がドイツからの移住を検討しており、3%はすでに具体的な移住計画を立てていることが明らかになりました。移住を考える主な理由として、政治への不満、高い税負担、行政手続きの非効率さ、差別の存在などが挙げられています。特に高学歴でドイツ語能力に優れた層において移住を検討する割合が高く、IABは高度外国人材をいかに引き留めるかが今後の課題だと指摘しています。なお、「ドイツに永住したい」と回答した人の割合は57%でした。
記事は、メルツ政権の移民政策転換がドイツの労働市場と社会統合に与える影響について、今後の動向を注視する必要があると結論づけています。