国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所が2025年7月29日に公表した研究成果で、都市住民の森林利用実態と森林空間利用促進策について詳細な調査分析を行った重要な政策研究です。本研究は、森林の多面的機能活用と都市住民の健康・福祉向上の両立を目指した実証的研究として注目されています。
調査概要について、2024年10-12月に東京23区在住の20-69歳の住民3,000人を対象とした大規模アンケート調査を実施し、2,847人から有効回答を得ました（回収率94.9％）。調査項目は、過去1年間の森林訪問経験、訪問目的、利用形態、満足度、森林利用への阻害要因、今後の利用意向などを包括的に調査しています。
主要な調査結果として、過去1年間に何らかの形で森林を訪れた住民は全体の33.2％（約3人に1人）となりました。年代別では20代が28.1％と最も低く、30代35.4％、40代34.7％、50代32.8％、60代35.9％となっており、子育て世代から中高年層にかけて利用率が高い傾向が確認されています。
森林訪問の目的分析では、「自然観賞・散策」が最も多く68.5％、次いで「リフレッシュ・ストレス解消」が54.2％、「運動・健康づくり」が41.8％、「家族・友人との交流」が38.9％となっています。この結果は、森林が都市住民にとって心身の健康維持と社会的交流の場として重要な役割を果たしていることを示しています。
利用形態については、日帰り利用が84.3％と圧倒的多数を占め、宿泊を伴う利用は15.7％に留まっています。訪問頻度では、年1-2回が42.1％、年3-5回が28.7％、年6回以上の頻繁な利用者は29.2％となっており、多くの住民にとって森林利用は非日常的な体験として位置づけられています。
訪問先の森林については、関東近県の森林が76.8％と大部分を占め、具体的には東京都内（奥多摩、高尾山等）が35.4％、神奈川県が18.2％、千葉県が12.7％、埼玉県が10.5％となっています。平均移動時間は約2.3時間で、アクセスの良さが森林利用の重要な決定要因となっていることが確認されています。
森林利用の阻害要因について、森林を訪れなかった住民（66.8％）の主な理由は、「時間がない」が58.7％と最多で、「興味がない」が31.2％、「アクセスが不便」が28.9％、「何をすればよいかわからない」が24.6％、「費用がかかる」が19.3％と続いています。これらの結果は、森林利用促進のための具体的な政策課題を明確に示しています。
満足度調査では、森林を訪れた住民の95.8％が「満足」または「やや満足」と回答し、極めて高い満足度を示しています。特に満足度が高い要素として、「空気の清浄さ」（92.1％）、「自然の美しさ」（89.6％）、「静寂性」（87.3％）、「植物の多様性」（84.2％）が挙げられています。
健康効果の自己評価では、森林訪問後に「ストレスが軽減された」と回答した住民が88.4％、「リフレッシュできた」が91.2％、「体調が良くなった」が67.8％となっており、森林の健康増進効果が実感されています。これらの効果は年齢層や性別に関係なく広く確認されています。
森林利用促進策への提案として、調査結果に基づき以下の政策提言が示されています。まず、アクセス改善策として、都市部からの公共交通アクセスの充実、森林地域への直通バス運行、駐車場の整備拡充が必要とされています。
情報提供の充実については、森林での具体的な楽しみ方や活動内容の情報発信、初心者向けガイドプログラムの充実、SNSやウェブサイトを活用した情報提供の強化が提言されています。特に「何をすればよいかわからない」という声に対応した具体的なプログラム提案が重要とされています。
施設・サービス整備では、森林内での休憩施設の充実、トイレ・手洗い場の整備、飲食施設の設置、ガイドサービスの提供などが求められています。また、子ども連れや高齢者でも利用しやすいバリアフリー化の推進も重要な課題として指摘されています。
今後の研究展開として、森林利用の健康効果の定量的測定、季節別・天候別の利用パターン分析、他の都市圏住民との比較研究などが計画されており、森林の多面的機能活用に向けた科学的基盤の更なる充実が期待されています。