総務省統計研究研修所が発表した共同研究リサーチペーパー第64号について、非正規雇用から正規雇用への転職(正規化)傾向を雇用形態別に分析した研究成果を紹介したものです。
本研究は、就業構造基本調査の個票データを用いたプロビット分析により、非正規雇用から正規雇用への転職について、雇用形態による転職しやすさの差異とその長期的・固定的性質を検証しています。
研究の背景
日本における非正規雇用は1990年代から増加を続け、1995年に1,000万人、2003年に1,500万人、2016年に2,000万人を超え、2023年には約2,120万人に達しています。雇用者に占める非正規雇用の比率は約40%という高水準で推移しており、賃金格差、雇用の不安定性、技能蓄積の困難さ、福利厚生の不十分さなど、雇用の質が問題視されています。2023年と2024年にはそれぞれ33万人、32万人が非正規雇用から正規雇用へ転職しています。
主要な分析結果
分析の結果、正規化傾向には明確な性別・雇用形態別の差異が存在することが明らかになりました。女性については、パートタイムと派遣社員が他の雇用形態と比較して正規化しにくい傾向があり、この傾向は長期にわたって継続していることが確認されました。一方、男性については雇用形態による正規化傾向の差はほとんど見られないという結果が得られています。
就業調整の実態
女性の非正規雇用者のうち、税制上の扶養控除や社会保険適用を避けるために就業調整を行っている者は約3割強に過ぎず、最も就業調整が多いパートでも約4割となっています。つまり、非正規雇用全体では約7割が就業調整を行っておらず、非正規雇用が必ずしも自発的選択によるものではないことが示されています。
潜在クラス分析による検証
雇用形態別の正規化傾向が、単に就業実態が正規雇用に近いことを反映しているのかを潜在クラス分析により検証した結果、正規化傾向と就業実態の正規雇用との近接性は必ずしも一致しないことが判明しました。これは、正規化傾向が各雇用形態に特有の性質を持つことを示唆しています。
政策的含意
本研究の結果は、非正規雇用の正規化促進政策において、画一的なアプローチではなく、雇用形態別・性別の特性を考慮したきめ細かな施策の必要性を示しています。特に女性のパートタイムと派遣社員については、正規化を阻害する要因の詳細な分析と、それに基づく支援策の構築が重要となります。
記事は、非正規雇用の正規化が雇用形態によって異なる傾向を持ち、特に女性において顕著な差異が存在することを実証的に明らかにし、効果的な雇用政策の立案に向けた重要な知見を提供しています。