国立社会保障・人口問題研究所は2025年7月29日、令和5年度(2023年度)社会保障費用統計を公表しました。本統計は、日本の社会保障制度全体の費用構造と財源構成を国際比較可能な形で整理した重要な政府統計であり、OECD基準、ILO基準、EU基準の3つの国際基準に基づいて作成されています。
今回の統計で最も注目すべき点は、新型コロナウイルス感染症対策関係費の大幅な縮小により、社会保障費用が前年度から減少したことです。2023年度の社会保障費用総額は約140兆円となり、前年度比で約5兆円の減少を記録しました。これは、コロナ禍における緊急的な給付措置や医療体制確保のための臨時的支出が段階的に縮小されたことが主因です。
政策分野別の内訳では、高齢者関係給付費が最大の比重を占め、全体の約54%にあたる約76兆円となっています。これは前年度とほぼ同水準で推移しており、高齢化の進展に伴う構造的な増加傾向が継続していることを示しています。医療関係給付費は約44兆円(全体の約31%)、障害・労災・職業病関係給付費は約8兆円、児童・家族関係給付費は約7兆円となっています。
国内総生産(GDP)に対する社会保障費用の比率は約25.2%となり、前年度の26.8%から1.6ポイント低下しました。これは主にコロナ関連の臨時的支出の減少によるものですが、長期的な趨勢としては高齢化の進展に伴い上昇傾向が続いています。OECD諸国との比較では、日本の社会保障費用の対GDP比は依然として中位程度の水準にありますが、急速な高齢化により今後さらなる上昇が予想されます。
財源構成については、社会保険料が最大の財源となっており、全体の約60%を占めています。国庫負担等の公費負担は約35%、その他の財源が約5%となっており、この構成比は過去数年間ほぼ安定しています。ただし、高齢化の進展に伴い、将来的には公費負担の割合が増加する可能性が指摘されています。
機能別給付費の分析では、年金給付が約56兆円で最大の項目となっており、医療給付が約44兆円、介護給付が約13兆円と続いています。年金給付は高齢者人口の増加に伴い継続的に増加している一方、医療給付は診療報酬改定や医療技術の進歩、人口構造の変化などの影響を受けて変動しています。
地域別・制度別の詳細分析も行われており、都道府県別の社会保障費用の格差や、国民健康保険、厚生年金保険、雇用保険など個別制度の財政状況についても包括的な データが提供されています。これらの詳細統計は、政策立案や学術研究において重要な基礎資料として活用されています。
国際比較の観点では、日本の社会保障制度の特徴として、高齢者向け給付の比重が高い一方で、児童・家族向け給付の比重が相対的に低いことが改めて確認されています。この傾向は少子高齢化の進展を反映したものですが、持続可能な社会保障制度の構築に向けた政策課題としても重要な示唆を提供しています。