ジェトロ・ホーチミン事務所が2025年4月に作成した調査報告書で、ベトナムの高度外国人材の実態と日本への人材供給可能性について詳細な分析を行った重要な調査です。本調査は、厚生労働省が2025年1月に発表した外国人雇用状況においてベトナムが最多の57万人(全体の約25%)を占めるという現状を踏まえ、ベトナム南部地域の大学を中心に実施されました。
ベトナムの外国人労働者数の背景として、専門的・技術的分野の在留資格者(特定技能を除く)が10.5万人に達し、中国の15.1万人に次いで2番目に多い数となっていることが挙げられます。これは、ベトナムが単純労働力の供給源から高度人材の供給源へと変化していることを示す重要な指標です。
調査対象と方法について、本調査はベトナム南部地域(ホーチミン市、ドンナイ省、ビンズオン省など)の主要大学における日本語学習者、IT・工学系専攻学生、日本企業への就職希望者を中心に実施されました。対象大学には、ホーチミン市工科大学、FPT大学、ホーチミン市師範大学、ベトナム国家大学ホーチミン市校などの名門校が含まれており、合計約1,200名の学生・卒業生からの回答を得ています。
日本語学習の現状については、ベトナム南部地域における日本語学習者数が急速に増加しており、特に大学レベルでの日本語教育の充実が確認されています。調査対象大学では、日本語専攻コースの定員が過去5年間で約40%増加し、副専攻として日本語を学ぶ学生も含めると、年間約5,000名の日本語学習者が輩出されています。学習動機の上位は「日本企業への就職希望」(68%)、「日本の技術・文化への関心」(45%)、「留学希望」(32%)となっています。
高度技術人材の強みと優位性について、ベトナムの大学生・若手社会人の技術的素養は国際的に高い水準にあることが確認されています。特に、IT分野では世界的なプログラミングコンテストでの上位入賞者を多数輩出しており、ソフトウェア開発、システム設計、データ分析などの分野で優れた能力を有しています。工学分野では、機械工学、電子工学、化学工学の専攻者が多く、製造業での技術者需要に対応できる人材が豊富に存在しています。
日本企業への就職意向については、調査対象者の約72%が「日本企業での就職に興味がある」と回答し、そのうち45%が「日本本社での勤務を希望」、27%が「ベトナム現地の日系企業での勤務を希望」としています。希望職種は、IT・情報システム(38%)、研究開発・技術職(28%)、国際営業・貿易(18%)の順となっており、高度な専門性を活かせる職種への関心が高いことが示されています。
給与・待遇への期待については、初任給として月額1,500〜2,500ドル相当を期待する回答者が最も多く(42%)、これは日本の新卒初任給水準との整合性が確認されています。また、昇進・昇格の機会、技術研修の充実、長期的なキャリア形成支援を重視する傾向が強く、単なる労働力としてではなく、専門人材としての成長機会を求めていることが明らかになっています。
課題と政策提言として、ベトナム高度人材の日本企業への円滑な受け入れのため、日本語教育の更なる充実、インターンシップ制度の拡大、現地での企業説明会・採用活動の強化、ビザ手続きの簡素化などが必要であると指摘しています。また、長期的な人材確保の観点から、ベトナムの大学との連携強化、現地での日本企業の認知度向上、文化的相互理解の促進が重要な課題として挙げられています。