三菱総合研究所の古木二郎氏と野本哲也氏が、資源安全保障と国際競争力の観点から、日本の製造業が循環経済型事業モデルへの転換を急ぐ必要性と、その実現に向けた具体的方策を提言したものです。
主要なポイント
1. サーキュラーエコノミー(CE)への移行が急務となる背景
- CE(循環経済)の定義:資源を効率的に循環させ、持続可能な社会をつくるとともに付加価値の最大化を目指す経済システム
- 効果:資源の有効利用、廃棄物削減に加え、カーボンニュートラル(CN)やネイチャーポジティブ(NP)にもプラスの効果
- 課題:再生材の調達・使用コストがバージン材より高い、CEコマースが新品販売を減らすリスクなど経済合理性の壁
2. 潮目の変化:CE移行が経済合理性を持つ4つの理由
資源安全保障の必要性
- 資源偏在と地政学リスクの高まり
- 安定供給確保のため国内循環資源の活用割合を高める必要性
国際規制とグローバル企業の要求
- EU先導の循環経済規制
- Apple社などグローバルブランドが再生材使用を義務化
- 日本企業の部品供給が高いハードルに
技術模倣の容易化による収益モデルの脅威
- デジタルツインやAI解析でリバースエンジニアリングの精度向上
- サードパーティによる非正規市場の拡大
- 正規のアフターマーケットでの収益確保が困難に
グローバル市場でのリマン・リファブ拡大
- 欧米:高付加価値型のリマニュファクチャリング(再製造)・リファービッシュ(再生)
- 新興国:低コスト型のリマン・リファブ
- 従来の「製品売り切り型」ビジネスモデルの競争力低下
3. CE加速化の4つの原則とポイント
- Regenerate:環境負荷を抑えた資源利用(再生可能資源使用、有害物質排除)
- Narrow:資源使用量の削減(リデュース)
- Close:バージン材を代替する再生材使用
- Slow:資源を長く使う(修理、部品交換、二次製品売買)
重要ポイント:③Closeと④Slowが鍵。動脈産業と静脈産業をつなぐ接合点での実践が不足
4. 再生材利用拡大のアプローチ転換
従来の静脈産業起点から動脈産業起点へ
静脈産業起点の限界:
- 廃棄物の可視化→価値化→経済への内部化という流れ
- 企業負担が大きく、収益につながらない
- 再利用先が不明確で事業が成立しない
動脈産業起点の新アプローチ:
- 潜在コストの内部化(廃棄コスト、炭素コスト、資源調達リスクを事業判断に含める)
- 再生材の価値化(需要と供給の条件が合致する売買を実現)
- 売買資源の可視化(品質や由来の担保・立証)
5. CEコマースの可能性
- 効果:②Narrowや④Slowの実現
- ビジネスモデル:リユース、リマン、リファブなど
- メリット:
- 製品ライフサイクル全体での価値提供により長期収益増大
- 再生材の循環利用で資源調達リスクと炭素コスト低減
- 実現方法:IoTによる製品稼働状況監視、ソフトウェアによる機能拡張、モジュール部品交換など
6. 今後の展望
- 資源循環と顧客関係を一体化したエコシステムが製造業の次なる成長ドライバーに
- 長期的な事業成長と社会的責任を重視する製造事業者の存在が持続可能な社会の原動力
- 潮目が変わった今こそ、その一歩を踏み出す時
本提言は、日本の製造業が国際競争力を維持・向上させるためには、CEへの転換を経済合理性の観点から積極的に推進すべきことを明確に示しています。