リクルートワークス研究所の中村駿介氏が、長崎県壱岐市で実施された「エンゲージメント・コミュニティ・ラボ(ECL)」の取り組みを通じて、地域と地域外の人々が共に価値を創造する「共創人口」の概念と実践について報告したものです。
主要なポイント
1. ECL(エンゲージメント・コミュニティ・ラボ)の概要
- 実施期間:2022年10月から約1年間
- 目的:「エンゲージメント=主体的な関与意欲」を切り口に、異なる主体が自律分散的に協調して新しい社会の形を形成する方法を模索
- 参加者:壱岐市をはじめとした自治体、企業、研究機関、社団法人による産官学連携
- 特徴:単なる政策アイデア創出ではなく、人と人のつながり方のデザインを追求する実践型ラボ
2. 自治体間視察から得られたインサイト
- 福岡市:大都市の強みを活かし、起業家や若者が地域課題解決を通じて事業を育むエコシステム
- 横須賀市:地元大企業との共同事業によるスマートスクール化や人材育成の推進
- 東川町:「写真の町」を起点とした小さな共創の輪が持続的な人口増加を実現
- 壱岐市:市民対話会による課題の共通認識化と解決への参加促進の仕組み
- 共通の発見:「わかりやすい関わりしろ」の設計が重要
3. 関与の3段階モデルと共創人口の形成
- 体感(Feel):地域に実際に触れる・感じる機会を通じて接点を持つ
- 発信(Express):感じたことを発信・共有し、他者と関係を深める
- 創出(Create):地域との関わりの中から新たな価値やプロジェクトを共に創り出す
- 目指す姿:単に「人を呼ぶ」「関係を持つ」から「共に手を動かす」段階へ進む関係人口=共創人口
4. 具体的な仕組みの設計
- Null Café(ナルカフェ):
- 「好き」をテーマに発表し、地域住民と対話する偶発的な出会いの場
- Temiロボットによる遠隔参加で身体性を伴った参加を実現
- 第2回では9団体による多彩な場を設置(福島県大熊町、写真家、移動販売、私立中高一貫校等)
- e市民制度(エンゲージメント市民制度):
- 住民票を持たない非居住者への仮想的な市民資格
- 地域通貨と紐付いたステータス制度
- 継続的な情報発信と参加者への移動・滞在費補助
- 広報の根本理念:
- 目的(Why):地域と地域に関わる人のしあわせの総量を増やす
- 方法論(How):しあわせの連鎖を生み出す
- 具体策(What):Null Caféやe市民制度の実施
5. ECLの成果と意義
- 実践的成果:ECL参加企業・団体と壱岐市の共創が継続・深化
- 概念的成果:共創人口は制度や目標値ではなく「人の心が動く瞬間」の創出が本質
- 社会的意義:制度による損得ではなく、人がつながりを求める理由や力を基盤に社会を編み直す実験
- デザインの転換:「制度」から「つながり」へ、一方向から双方向の「共鳴」へ
本レポートは、地方創生における新たなアプローチとして、関係人口を超えた「共創人口」という概念の実践的な展開と、その実現に向けた具体的な仕組みづくりの過程を詳細に記録したものです。