背景と目的
金融庁は、ステーブルコインの市場での存在感が増大する中、その健全な発展に向けた実態把握を目的として、デロイト トーマツ コンサルティングに調査研究を委託しました。ステーブルコインは、従来の暗号資産が抱える価格変動リスクを回避し、迅速かつ低コストな送金・決済を実現できる利点があり、時価総額は2,100億ドルを超える規模に成長しています。
主要な調査内容
決済関連ユースケースの拡大
- 暗号資産取引の決済だけでなく、国際送金、B2Bクロスボーダー取引、デジタル決済、Eコマースなど多岐にわたる用途で導入が進展
- 銀行口座保有率が低い地域や自国通貨のインフレ率が高い地域で、既存の銀行ネットワークに代わる価値交換手段として活用
不正利用への対策と課題
- 制裁対象者の取引分析では、ステーブルコインの利用割合が相対的に高いことが判明
- 発行者によるブラックリスト機能の活用などの対策が実施されているが、発行者単独での対応には限界があり、分析ツールベンダーや当局との連携が必要
- ミキシング（盗難ルートの隠蔽）やチェーンホッピング（複数チェーン間の移動）など、不正利用の手法が高度化
技術的対策の進展
- ステーブルコイン発行者：Layer2ブロックチェーンへのブラックリスト機能の拡張
- 分析ツールベンダー：機械学習を活用したパターン分析
- ウォレットプロバイダー：予防のためのアラート機能の提供
今後の展望
ステーブルコインが新たな機会を健全に創出できるよう、以下の取り組みが重要とされています：
- リアルタイムでの不正対策の強化
- 普遍的に認められる不正行為の明確化
- ステークホルダー間での継続的な協力体制の構築
- 規制環境の整備とインセンティブ設計の改善
本調査は、ステーブルコインのもたらす新たな機会を最大限に活かしつつ、潜在的リスクへの対策の方向性を示すものとして、国際会議等での発信が予定されています。
感想
本報告書は、金融システムがモバイル決済からステーブルコインなどの新たなデジタルツールへと進化していく過程における重要な分析です。特に注目すべきは、ステーブルコインが単なる投機的資産ではなく、実際の決済手段として急速に普及している点です。
銀行口座を持たない人々や高インフレに苦しむ地域での活用事例は、金融包摂の観点から非常に興味深く、従来の金融システムの限界を補完する可能性を示しています。一方で、不正利用への対策が喫緊の課題となっており、技術的な対策と規制環境の整備の両輪で進める必要性が明確になっています。
日本においても、今後ステーブルコインの利用が拡大することが予想される中、本報告書が示す知見は、規制当局、金融機関、フィンテック企業など、すべてのステークホルダーにとって貴重な指針となるでしょう。特に、グローバルな視点での実態把握と、リスク管理体制の構築の重要性が強調されている点は、今後の政策形成において重要な示唆を与えています。