金融庁が発表した「ステーブルコインの健全な発展に向けた分析 調査研究報告書【日本語】」に関する包括的な調査研究レポートです。デロイトトーマツコンサルティングに委託され、ステーブルコインの利用実態、不正利用リスク、発行者の事業実態を詳細に分析し、健全な発展のための知見を提供しています。
主要なポイント
1. 報告書の概要
- 委託先:デロイトトーマツコンサルティング合同会社
- 公表日:令和7年(2025年)3月
- 発注者:金融庁
- 学術アドバイザー:
- 京都大学・岩下直行教授
- 米ジョージタウン大学・松尾真一郎研究教授
- 立命館大学・上原哲太郎教授
- 分析協力:Chainalysis社、Elliptic社、TRM Labs社
2. 調査の背景と目的
ステーブルコインの急速な成長
- 市場規模:時価総額100億ドル超(2025年1月時点)
- 主要通貨:Tether(USDT)は全暗号資産で時価総額3位
- 利用拡大:個人、企業、機関投資家による採用加速
- 強み:
- 価格変動リスクの回避
- 迅速な送金・決済
- 低コスト運用
問題意識
- 不正利用の拡大:
- 匿名性・即時性の悪用
- マネーロンダリング(AML)
- テロ資金供与対策(CFT)
- 拡散金融対策(CPF)
- 金融安定リスク:
- FSBからの警告
- システミックリスクの懸念
- 規制の必要性
3. 報告書の構成と主要調査項目
第1章:決済関連ユースケースと周辺サービス
- ステーブルコインの概況:
- 主要ステーブルコインの特徴
- 技術的基盤(ブロックチェーン)
- 発行・流通メカニズム
- 決済ユースケース:
- 国際送金
- B2B決済
- リテール決済
- DeFi(分散型金融)
- 普及促進要因:
- Layer2技術の発展
- 決済ネットワークとの連携
- ユーザーインターフェースの改善
第2章:利用状況と不正利用事例
- 不正利用の定義と分類:
- 流入段階(犯罪収益の暗号資産化)
- 洗浄段階(ミキシング、レイヤリング)
- 換金段階(法定通貨への交換)
- 主要な手口:
- 非管理型ウォレットの悪用
- 分散型取引所(DEX)の利用
- クロスチェーン・ブリッジの活用
- 技術的特性とトレンド:
- プライバシー強化技術
- 匿名性向上ツール
- 追跡困難化手法
第3章:発行者の事業実態
- 主要発行者分析:
- Tether(USDT)
- Circle(USDC)
- 事業モデルと収益構造
- 資産管理体制:
- 準備資産の構成
- 監査・開示体制
- リスク管理フレームワーク
- 技術的対策:
- スマートコントラクト設計
- 資産凍結機能
- コンプライアンス機能
4. 不正利用の実態と対策
アクター分析
- 不正利用者:
- 組織犯罪グループ
- サイバー犯罪者
- テロ組織
- 仲介者:
- 不正な交換業者
- ミキシングサービス
- P2P取引プラットフォーム
- 被害者:
- 一般投資家
- 金融機関
- 規制当局
対策の方向性
- 技術的対策:
- ブロックチェーン分析の高度化
- AI/MLによる異常検知
- リアルタイム監視システム
- 規制的対策:
- KYC/AML強化
- トラベルルール実装
- 国際協調体制
- 業界自主対策:
- 情報共有プラットフォーム
- ベストプラクティス策定
- 認証制度導入
5. 発行者のリスク管理
準備資産管理
- 資産構成:
- 現金・現金同等物
- 短期国債
- コマーシャルペーパー
- 透明性確保:
- 定期的な監査報告
- リアルタイム開示
- 第三者検証
コンプライアンス体制
- 内部統制:
- リスク評価プロセス
- 内部監査機能
- コンプライアンス部門
- 外部連携:
- 規制当局との対話
- 法執行機関への協力
- 業界団体活動
6. 技術トレンドと新たな取り組み
Layer2ソリューション
- スケーラビリティ向上
- 取引コスト削減
- 処理速度改善
クロスチェーン技術
- 相互運用性の確保
- 流動性の向上
- エコシステム拡大
プログラマブルマネー
- スマートコントラクト活用
- 条件付き決済
- 自動執行機能
7. 国際的な規制動向
- FSB(金融安定理事会):
- グローバル規制枠組み
- リスク評価基準
- 監督ガイドライン
- FATF(金融活動作業部会):
- AML/CFT基準
- トラベルルール
- リスクベースアプローチ
- 各国規制:
- EU:MiCA規制
- 米国:ステーブルコイン法案
- 日本:改正資金決済法
8. 健全な発展への提言
短期的施策
- 不正利用対策の強化
- 透明性向上措置
- 利用者保護強化
中長期的施策
- 規制フレームワーク整備
- 技術標準の確立
- 国際協調体制構築
イノベーション促進
- サンドボックス制度
- 官民連携強化
- 研究開発支援
9. ステークホルダーへの示唆
発行者
- コンプライアンス体制の継続的改善
- 技術的セキュリティの強化
- ステークホルダーとの対話
利用者
- リスク認識の向上
- 適切な利用方法の理解
- セキュリティ対策の実施
規制当局
- リスクベースの規制アプローチ
- 国際協調の推進
- イノベーションとのバランス
10. 結論と今後の展望
本報告書は、ステーブルコインが金融システムに統合される過程で直面する課題と機会を包括的に分析しています。不正利用リスクへの対応と健全な市場発展の両立には、技術的対策、規制整備、業界自主努力の三位一体のアプローチが不可欠です。
今後、ステーブルコインが真に社会に貢献する決済インフラとなるためには、透明性、安全性、効率性を高めながら、イノベーションの余地を残すバランスの取れた発展が求められます。本報告書の知見が、関係者の取り組みと国際的な政策議論に貢献することが期待されています。