中東情勢緊迫化が世界経済と国際商品市場に及ぼした影響|第1章中東情勢の緊迫化が世界経済と各国政策に及ぼした影響

|内閣府|元記事

概要

2026年2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃と報復を契機にホルムズ海峡の通航が大幅に制約され、湾岸諸国のエネルギー生産・輸出が混乱した。原油、天然ガス、ジェット燃料、肥料の価格が急騰し、物価上昇、家計の購買力低下、企業収益圧迫、物流・観光への影響が生じた。一方、主要国の生産活動への影響は限定的で、備蓄放出、代替調達、減税、補助金、需要抑制策が対応を支えた。中央銀行はインフレ再加速を受け、利下げから据置き・利上げ重視へ転換しつつある。

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要点

  • 供給制約の影響は、経済全体の急停止よりもエネルギー価格上昇として広がった。
  • アジアは湾岸エネルギーへの依存度が高く、欧州より直接的な影響を受けた。
  • 財政余力の低下が、時限的・対象限定型の支援を促した。
  • 主要中央銀行の政策の重心は、景気支援からインフレ抑制へ戻りつつある。

概要

2026年2月28日に米国とイスラエルがイランへの攻撃を開始し、イランの報復によって湾岸諸国の基地・エネルギー施設が攻撃を受けた。3月2日にはイラン革命防衛隊が、世界で消費される石油の約2割が通過するホルムズ海峡の封鎖を表明した。

6月17日に米国とイランの首脳が戦闘終結に向けた覚書に署名した後も、7月時点で通航正常化を含む情勢は予断を許さず、湾岸諸国からの輸出は抑制された。

湾岸諸国は世界の原油生産の約3割、天然ガス生産の2割弱を占める。被災設備の復旧には数年単位を要する可能性があり、LNG供給の拡大による市場安定化も少なくとも2年遅れる可能性が示された。

影響はアジアで大きく、日本のホルムズ海峡依存度は9割超、韓国は約7割、インドと中国は5割未満だった。欧米は原油調達先が分散し、欧州は再生可能エネルギー拡大と化石燃料依存低下によって相対的に耐性を高めていた。

主要数値

攻撃開始日
2026年2月28日
暫定覚書署名日
2026年6月17日
ホルムズ海峡通過石油の世界消費比率
約2割
WTI終値(攻撃前)
67.02ドル/バレル
WTI終値(4月7日ピーク)
112.95ドル/バレル
2026年3月の世界石油需給
日量560万バレルの供給不足
2026年の石油需給見通し
日量90万バレルの供給不足
2027年の石油需給見通し
日量500万バレルの供給超過
天然ガス価格の3月上昇率
59.0%
ジェット燃料価格の3月上昇率
107.4%

影響

原油価格の上昇は、ジェット燃料、天然ガス、肥料へ波及した。2月27日から3月31日にかけて、天然ガスは59.0%、ジェット燃料は107.4%、肥料は50.0%上昇した。肥料価格が50%近く上昇すると、農産物の国際価格は2026年に4%、2027年に8%上昇する試算もあり、低所得者層ほど食料負担が重くなる。

米国ではガソリン高と航空運賃上昇を通じて消費者物価上昇率が4%台に上昇した。ユーロ圏では消費者物価上昇率が3.2%となったが、2022年の危機ほどの上昇には至らなかった。中国では内需の弱さや電気自動車への移行が燃料高の家計影響を抑えた。

製造業では調達価格の上昇が販売価格を上回り、企業収益を圧迫した。湾岸諸国では、サウジアラビアの鉱工業生産が3月に前年比15.8%減、財輸出が22.7%減となり、実質GDP成長率は2026年1〜3月期に3.0%へ減速した。

アジアでは原油輸入量が減少し、中国は過去5年平均比で約3割、韓国は約25%、インドは過去4年平均比で約3割落ち込んだ。航空便の欠航や運賃上昇は物流・観光を下押しし、タイでは4月に海外旅行客数全体が減少へ転じた。

詳細

各国は供給確保と需要抑制を組み合わせた。IEA加盟32か国は3月11日に、過去最大となる4億バレル超の石油備蓄の協調放出に合意し、5月8日までに政府備蓄9,000万バレル、民間備蓄7,400万バレル、合計1億6,400万バレルを放出した。アジア各国はロシア、米国、アフリカ、オマーンなどへの調達先分散を進めた。

日本は7月時点で、ホルムズ海峡を経由しない代替調達により前年平月比で約10割を確保する目途を示した。韓国は年末までに4か国から合計2億7,300万バレル、平時消費量の3か月超分を調達する合意を発表した。

需要抑制では、IEA集計で啓発が40か国、交通抑制が24か国、減税が55か国、補助金が32か国、価格抑制が23か国で実施された。韓国は3月24日に12項目の省エネ行動要領を公表し、3月25日から公用車の5部制を実施、4月8日には2部制へ強化した。7月1日には警報レベルを引き下げ、公用車2部制を終了した。

財政余力が低下する中、欧州委員会は2026〜2028年について、輸入化石燃料依存を低下させる支出を年間GDP比0.3%、3年間累積GDP比0.6%まで財政ルールの枠外とできる方針を示した。フランスは低所得世帯等への対象限定支援を採り、エネルギーバウチャーを合計450万世帯へ配布し、産業向けには約7,000万ユーロの支援を発表した。

金融政策では、ECBが2026年6月に預金ファシリティ金利を2.25%へ引き上げた。FRBは政策金利を据え置いたが、2026年末の見通し中央値は1回利下げから0.5回利上げへ転じた。BOEは3.75%で据え置き、2月から4会合連続の据置きとなった。

FRBでは2025年12月に約3年半続いたQTを終了し、準備預金維持を目的とする短期国債買入れ政策RMPsを開始した。2026年6月FOMCではフォワードガイダンスを廃止し、コミュニケーション、バランスシート、データ、生産性・雇用、インフレ枠組みの5分野でタスクフォースを設置した。

中国人民銀行は2024年以降、7日物リバースレポ金利を実質的な中心政策金利とする体系へ移行した。2026年3月の全人代政府活動報告は、実質GDP成長率4.5〜5%、都市部新規就業者数1,200万人以上、CPI上昇率2%程度、財政赤字GDP比4%程度、地方特別債発行枠4.4兆元を目標として、適度に緩和的な金融政策を維持するとした。

今後の焦点は、ホルムズ海峡と湾岸設備の復旧、エネルギー価格上昇の二次的な物価・賃金波及、限られた財政余力の下での支援設計、そして主要中央銀行の利上げ・量的政策運営である。AI関連投資が米国や一部アジアの景気を支える一方、明確な成長けん引役が乏しい欧州ではエネルギー高の下押しが相対的に表れやすい。

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