経済産業研究所(RIETI)の研究コラムで、トランプ政権下で実施された関税政策が日本企業に与えた影響と企業間の対応格差について、独自の企業アンケート調査結果に基づいて分析した重要な政策研究です。本研究は、2024年10-12月に製造業企業約1,500社を対象に実施したアンケート調査の結果を詳細に分析し、通商政策の企業レベルでの影響を実証的に検証しています。
トランプ関税の概要について、2018-2020年にかけて米国が実施した追加関税は、中国製品に対する最大25%の関税を中心に、鉄鋼・アルミニウムへの追加関税(25%・10%)、洗濯機・太陽光パネルへのセーフガード措置なども含まれています。これらの措置により、米国の平均関税率は約3%から約7%に上昇し、戦後最高水準となりました。
日本企業への直接的影響では、調査対象企業の約42%が「何らかの負の影響を受けた」と回答しています。影響の内容別では、「米国向け輸出の減少」(28%)、「中国での生産コスト上昇」(23%)、「調達先の変更を余儀なくされた」(19%)、「投資計画の見直し」(15%)が主要な影響として挙げられています。業種別では、電子機械・精密機器(58%)、自動車関連(47%)、化学・素材(39%)の順で影響を受けた企業の割合が高くなっています。
企業規模別の対応格差が顕著に現れており、大企業(従業員1,000人以上)では78%が具体的な対応策を実施した一方、中小企業(従業員300人未満)では42%に留まっています。大企業の主な対応策は、「調達先の多様化」(65%)、「生産拠点の分散」(48%)、「製品構成の見直し」(43%)となっており、包括的なリスク分散戦略を展開しています。
中小企業の対応制約として、「対応策検討のための人材不足」(72%)、「代替調達先の情報不足」(58%)、「設備投資資金の制約」(54%)、「取引先との関係維持の困難さ」(46%)が主な課題として浮上しています。これは、中小企業の国際通商リスクへの対応能力の限界を示しており、政策支援の必要性を示唆しています。
対応策の効果測定では、積極的な対応策を実施した企業群の売上高は、未対応企業群と比較して平均約8%高い成長率を維持しています。特に、「調達先多様化」を実施した企業では、関税による原材料コスト上昇を平均約3.2%ポイント抑制する効果が確認されています。また、「生産拠点分散」を実施した企業では、地政学的リスクに対する耐性が向上し、サプライチェーンの安定性が改善されています。