中小企業庁が2025年8月に発表した「令和6年度起業家教育事業実施結果について」について、全国の起業家教育推進の成果と課題を包括的に分析した調査報告書です。
本事業は次世代を担う若者の起業家精神（アントレプレナーシップ）の育成を目的として、小学校、中学校、高等学校、大学・大学院を対象とした体系的な起業家教育プログラムを全国規模で展開したものです。令和6年度は全国47都道府県の教育機関で実施され、参加校数、受講生徒数、講師派遣実績、プログラム効果の詳細な実績評価が行われています。
プログラム実施状況では、小学校段階では地域課題解決をテーマとした体験型学習、中学校段階では職業観形成と社会貢献意識の醸成、高等学校段階ではビジネスプラン作成と実践的な企業経営体験、大学・大学院段階では実際のスタートアップ創出に向けた本格的な起業家育成プログラムが階層別に実施されています。
参加実績では、延べ参加校数が前年度比15％増加し、受講生徒・学生数も20％の増加を記録するなど、起業家教育への関心と需要の高まりが定量的に確認されています。地域別では、東京、大阪、愛知などの大都市圏に加え、地方都市でも積極的な取り組みが展開されており、起業家教育の全国的な普及が進展しています。
講師派遣については、現役起業家、ベンチャー投資家、中小企業診断士、大学教員、行政関係者など多様な専門家が教育現場に派遣され、実践的で説得力のある指導が実現されています。特に成功起業家による体験談、失敗事例を含むリアルなビジネス体験の共有が受講者に大きなインパクトを与えていることが確認されています。
プログラム内容の改善では、デジタル技術を活用した新しいビジネスモデルの学習、SDGs（持続可能な開発目標）を意識した社会課題解決型起業の推進、地域資源を活用した地方創生型起業の促進など、時代のニーズに対応した教育内容の充実が図られています。
効果測定では、受講前後のアンケート調査により、起業に対する関心度、チャレンジ精神、リーダーシップ、問題発見・解決能力、コミュニケーション能力などの向上が定量的に確認されています。特に「将来起業したい」「新しい事業を立ち上げたい」と回答する受講者の割合が大幅に増加しており、起業家精神の醸成に明確な効果が現れています。
地域連携の成果では、地方公共団体、商工会議所、金融機関、大学、民間企業が連携した地域ぐるみの起業家教育推進体制が構築され、地域の起業家エコシステム形成に寄与していることが確認されています。特に地域の成功起業家がロールモデルとして教育に参画することで、地域に根ざした起業家育成が実現されています。
課題と改善点では、教員の指導スキル向上、教材・カリキュラムの標準化、継続的な学習機会の提供、起業家教育と進路指導の連携強化などが重要課題として整理されています。
今後の展開では、デジタル・グリーン・ヘルスケアなどの成長分野での起業家育成強化、グローバルな視点を持った起業家の育成、起業家教育の評価手法の改善などが重点取組として位置づけられています。
記事は、日本の起業家精神の向上と新規事業創出の促進において、教育段階からの体系的な人材育成が着実に成果を上げており、経済活性化と雇用創出に向けた重要な基盤が構築されていることを示しています。