財務省が発行する「財政金融統計月報第873号（政府関係金融機関等特集）」は、政府系金融機関の業務運営状況と政策金融の役割について詳細に分析した専門誌です。
政府系金融機関の概要では、日本政策金融公庫（総資産約18.4兆円）、日本政策投資銀行（同約13.2兆円）、商工組合中央金庫（同約15.7兆円）、国際協力銀行（同約12.8兆円）等が含まれ、合計で約60.1兆円の資産規模を有しています。これらの機関は民間金融を補完し、政策目的に沿った金融サービスを提供する重要な役割を担っています。
2023年度の業務実績では、日本政策金融公庫の新規貸付実行額が約8.7兆円（前年度比12.3%増）となり、うち中小企業向けが約6.2兆円（71.3%）、農林水産業向けが約0.8兆円（9.2%）、教育ローン等個人向けが約1.7兆円（19.5%）でした。コロナ禍からの経済回復局面において、中小企業の設備投資資金や運転資金需要に積極的に対応しています。
日本政策投資銀行では民営化方針の下で成長資金等供給業務に重点を置き、2023年度の投融資実行額は約1.8兆円（前年度比8.9%増）となりました。分野別では脱炭素・エネルギー安全保障関連が約4,200億円（23.3%）、デジタル・イノベーション関連が約3,800億円（21.1%）、地方創生・インフラ関連が約6,100億円（33.9%）と、成長分野への資金供給を強化しています。
国際協力銀行では「経済安全保障推進法」に基づく重要物資の安定供給確保支援を新たに開始し、2023年度は約2,850億円の投融資を実行しました。地域別では東南アジア向けが約1,240億円（43.5%）、中南米向けが約685億円（24.0%）、アフリカ・中東向けが約520億円（18.2%）となり、日本企業の海外展開と資源確保を支援しています。
商工組合中央金融公庫では中小企業協同組合等への金融支援を通じて、2023年度は約4,200億円の新規貸付を実行しました。業種別では卸売・小売業向けが約1,680億円（40.0%）、製造業向けが約1,260億円（30.0%）、サービス業向けが約840億円（20.0%）となっています。
財政投融資の動向では、2024年度財政投融資計画において政府系金融機関向けの資金交付額は約12.8兆円（前年度比3.2%増）となりました。内訳は国債・財投債による調達が約9.6兆円（75.0%）、財政融資資金からの借入が約3.2兆円（25.0%）で、市場調達による資金調達の比重が高まっています。
政策金融の役割では、民間金融機関では対応困難な長期・固定金利資金の供給、新規事業・成長分野への投融資、災害等緊急時の資金供給、政策目標実現のためのツール的機能等が重要な機能として確認されています。特にコロナ禍では実質無利子・無担保融資等により中小企業の資金繰り支援に大きく貢献しました。
財務状況では政府系金融機関全体の2023年度決算において、経常利益が約8,450億円（前年度比5.7%増）、自己資本比率が平均12.8%（前年度比0.4ポイント上昇）と健全性を維持しています。不良債権比率は平均1.2%（同0.1ポイント改善）と低水準で、リスク管理体制も適切に機能しています。
国際比較では主要先進国の政策金融機関と比較分析を実施し、ドイツのKfW（資産規模約55兆円）、フランスのCDC（同約38兆円）、韓国の産業銀行（同約19兆円）等との業務内容、組織形態、政府関与のあり方等を詳細に比較検討しています。
今後の課題では、民業圧迫の回避と政策目的の達成の両立、デジタル化・脱炭素化等の新たな政策課題への対応、財政負担の適正化、国際競争力強化等が重要な論点として整理されています。また、政府系金融機関の役割見直しと民間金融機関との適切な役割分担の確立が継続的な課題となっています。
統計分析では各機関の財務指標、業務実績、政策効果等を時系列・横断的に分析し、政策金融の定量的評価を実施しています。ROA（総資産利益率）、ROE（自己資本利益率）、業務粗利益率等の収益指標と、政策目標達成度、社会的インパクト等の政策効果指標の両面から総合的な評価を行っています。
記事は、政府系金融機関が市場の失敗を補完し、政策目標実現に重要な役割を果たしているが、効率性・透明性の向上と民間部門との適切な役割分担を通じて、持続可能で効果的な政策金融体制の確立が重要であると結論づけています。