経済産業省の「統計は語る:コロナ禍でのペットブームのその後」は、新型コロナウイルス感染症拡大期間中に発生したペットブームとその後の市場動向を統計データで分析した報告書です。
ペット飼育状況の変化では、2020年から2022年にかけての「巣ごもり需要」により新規ペット飼育世帯が大幅に増加しました。一般社団法人ペットフード協会の調査によると、犬の飼育頭数は2019年の879.7万頭から2021年には710.6万頭と減少した一方、猫は977.8万頭から964.4万頭と微減にとどまりました。しかし、新規飼育世帯数は犬で年間約46.2万世帯(2019年比38.4%増)、猫で約52.8万世帯(同41.7%増)と大幅に増加しています。
ペット関連市場規模では、2023年の国内ペット市場は約1兆7,850億円(前年比6.8%増)に達し、コロナ前の2019年(約1兆5,430億円)から15.7%拡大しました。内訳ではペットフード市場が約6,240億円(34.9%)、ペット用品市場が約4,180億円(23.4%)、動物病院等サービス市場が約7,430億円(41.7%)となっています。
ペットフード市場の動向では、プレミアムフードへのシフトが顕著で、1kg当たり単価は犬用ドライフードで2019年の平均648円から2023年には789円(21.8%上昇)、猫用では583円から721円(23.7%上昇)まで上昇しています。また、国産・無添加・オーガニック等の高品質商品への需要が拡大し、プレミアムフード市場は年率12.4%で成長しています。
ペット用品市場では、在宅勤務普及によりペット用家具・インテリア用品の需要が急増し、2023年の市場規模は約1,280億円(2019年比48.3%増)となりました。特にペット用ベッド・ソファ(前年比32.1%増)、空気清浄機・脱臭機(同28.7%増)、Webカメラ等の見守りグッズ(同45.6%増)の伸びが顕著です。
動物病院・ペット保険市場では、予防医療意識の高まりにより動物病院市場が約4,850億円(2019年比18.9%増)に拡大しました。ペット保険加入率は犬で14.2%(2019年比5.8ポイント上昇)、猫で8.7%(同3.4ポイント上昇)と普及が進んでいます。平均年間保険料は犬で約4.8万円、猫で約3.2万円となっています。
地域別市場動向では、関東地方が全国市場の36.2%を占め最大市場となっており、次いで関西(21.7%)、中部(14.8%)が続いています。人口10万人当たりのペットショップ数は沖縄県(8.3店舗)、東京都(7.1店舗)、神奈川県(6.8店舗)が上位となっています。
年齢別飼育傾向では、50-60代の飼育率が最も高く、犬飼育世帯の43.2%、猫飼育世帯の39.7%を占めています。一方、20-30代の若年層では小型犬・猫の人気が高く、特にトイプードル、チワワ、マンチカン、スコティッシュフォールド等の品種が人気上位となっています。
経済効果分析では、ペット飼育による関連産業への波及効果は約2.4兆円(直接効果1.8兆円、間接効果0.6兆円)と推計されています。雇用創出効果は約28.5万人相当で、地域経済活性化への貢献も大きくなっています。
課題と対応では、コロナ禍で飼育を始めた「コロナペット」の飼育放棄が社会問題となっており、動物愛護センターへの持ち込み数が2023年に約4.2万頭(2021年比28.3%増)に増加しています。これに対し環境省は「動物愛護管理法」に基づく適正飼育の啓発活動を強化しています。
技術革新では、IoTを活用したペット見守りサービス、AI診断による健康管理アプリ、オンライン診療システム等のデジタル化が進展しており、ペットテック市場は約450億円(前年比31.2%増)の規模に成長しています。
今後の見通しでは、高齢化社会の進展によりペットの家族化・高齢化が進み、医療費負担増加、介護サービス需要拡大、ペットロス対策等の新たな課題への対応が必要となっています。市場規模は2030年に約2.2兆円まで拡大すると予測されています。
記事は、コロナ禍をきっかけとしたペットブームが一時的な現象ではなく、ライフスタイル変化に伴う構造的な市場拡大であり、適正飼育の推進と持続可能な市場発展を両立させることが重要であると結論づけています。