国立国会図書館の最新レポートによると、固定資産税は多くの国で地方税として位置付けられているが、その制度設計や地方税収に占める割合は国によって大きく異なることが明らかになった。2024年9月から10月にかけて実施された英国、ベルギー、イタリア、スウェーデンの現地調査結果を踏まえ、各国の固定資産税制度の特徴と課題を詳細に分析している。
固定資産税は、応益性の原則に適合し、普遍性・安定性・移動困難性といった地方税として望ましい特徴を有することから、多くの国で地方税とされている。OECD諸国の2022年度における地方政府の税収に占める固定資産税収の割合は平均39.3%に達している。しかし、国別に見ると、英国やオーストラリアでは地方税収のほぼ全てを固定資産税に依存する一方、スウェーデンやスイスでは同税の割合が極めて低く、大きな格差が存在する。
英国では、非居住用不動産に課される国税のビジネスレート(税収約5兆円)と、居住用不動産に課される地方税のカウンシル税(税収約9兆円)の二本立てとなっている。カウンシル税は1991年以降評価替えが行われておらず、評価額と市場価格の乖離が深刻化し、都市部では税負担が軽く地方では重いという逆進的な状況が生じている。また、単身世帯への25%の軽減措置が不動産の非効率な利用を助長しているとの指摘もある。
ベルギーでは、地域圏が固定資産税を課税する一方、連邦政府が評価を行うという分離体制により様々な問題が生じている。評価主体である連邦政府は税収を得ていないため適正な評価のインセンティブが弱く、地籍収入の情報更新が滞っている。また、連邦政府と地域圏の情報共有が不十分なため、税額修正が頻発し、納税者への説明責任でも混乱が生じている。
イタリアでは、基礎自治体(コムーネ)が固定資産税(IMU)を課しており、税収は約3兆円でコムーネ歳入の26.7%を占める重要な財源となっている。納税者の主な住宅は非課税とされ、各コムーネは基本税率0.76%を中心に上下0.3%ポイントの範囲で税率を自由に設定できる。しかし、納税者が税額を自己計算する制度のため計算誤りが多発しており、2025年を目途に新システムの導入が計画されている。
スウェーデンでは、2008年の制度改正により住宅用固定資産への課税を国から自治体に移譲し、「固定資産負担金」という名称に変更した。これは1990年代後半から2000年代前半の住宅価格急騰時に固定資産税額も急上昇し、国民の強い租税抵抗を招いた経験によるものである。現在、負担金には上限(2025年度は約15万円)が設けられており、地方歳入に占める割合はわずか3.85%にとどまっている。
国立国会図書館は、各国が直面する共通の課題として、評価額と市場価格の乖離、所有者不明土地の増加による徴収困難化、人口減少・高齢化への対応などを挙げ、諸外国の制度を参考にしつつ我が国の固定資産税制度の在り方について議論を深めることが重要であると結論づけている。