国立国会図書館が発行した「外国の立法」に掲載された、中国における植物新品種保護条例の改正について解説したものです。湯野基生氏が執筆し、2025年4月29日に公布、同年6月1日に施行された国務院令第807号の詳細を分析しています。
改正の背景と国際的動向 中国は食糧の国内自給確保のため植物品種の自主開発を推進しており、2017年以降新品種の出願件数は世界第一位を誇ります。植物の新品種保護に関する国際条約(UPOV条約)1978年改正条約の批准国である中国は、包括的及び先進的環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)への加盟も見据え、より先進的な1991年改正条約の批准に向けた法整備を進めており、その一環として本改正が実施されました。
育成者権の保護範囲拡大 改正前は繁殖材料(種子等)についてのみ育成者権者の許諾ない商業目的での生産・販売を禁止していましたが、本条例では2021年改正種子法第28条に従い、繁殖材料及びそれから得られた収穫物並びに本質的派生品種等について生産、販売、輸出入、貯蔵等を行う場合、育成者権者の許諾が必要となりました。また、本質的派生品種については国が段階的に関係制度を実施し、遺伝子検査等により判定することが規定されました。
審査期間の短縮と条件明確化 育成者権出願の予備的審査期間が従来の6か月以内から3か月以内に短縮され、複雑な場合は3か月間延長可能とされました。社会の公共利益や自然環境を害する新品種には育成者権を付与せず、販売・普及行為や実際の作付面積に基づく事実上の拡散、品種登記から2年以上出願がない場合は新規性を失ったとみなされます。
保護期限の国際基準への適合 条約の規定に合わせ、木本植物(樹木)及びつる植物の保護期限は付与公告日から25年、その他の植物は20年に延長されました。従来はつる植物・果樹等が20年、その他が15年でしたが、国際基準に合致する形に改正されています。
法的責任の強化 育成者権侵害があった場合の当事者間協議制度、県級以上政府の主管部門への申立制度が整備され、育成者権偽装の過料額が引き上げられました。県級以上政府の主管部門は生産現場への立入検査、繁殖材料等のサンプル検査、侵害行為に使用した道具類の押収等の権限が明記された一方、無知侵害の場合の賠償責任免除規定も設けられました。
記事は、中国の植物新品種保護制度がCPTPP加盟を見据えた国際基準への適合と国内農業の競争力強化を両立させる包括的改正であることを示しています。