国立国会図書館が2025年8月に刊行した「外国の立法」シリーズの立法情報・翻訳・解説記事で、中国の民営経済促進法の制定に関する法的分析を扱った専門的な立法調査報告です。「企業活動に対する規制・保護」をテーマとした小特集の一環として作成されています。
民営経済促進法制定の背景
中国経済において民営企業は国内総生産（GDP）の約60％、都市部雇用の約80％、技術革新の約70％を担う重要な経済主体となっている一方で、従来の法的枠組みでは国有企業と比較して制度的保護が不十分であり、資金調達の困難、行政手続きの複雑さ、知的財産権保護の不備などの課題が指摘されてきました。習近平政権下での「共同富裕」政策と並行して、民営企業の健全な発展を法制度面から支援する必要性が高まり、包括的な民営経済促進法の制定に至りました。
法律の主要内容と特徴
民営経済促進法は、民営企業の法的地位の明確化、公平競争環境の整備、金融アクセスの改善、知的財産権保護の強化、行政手続きの簡素化、税制優遇措置の拡充などを主要な柱としています。特に注目すべきは、国有企業と民営企業の「競争中立性」の確保、政府調達における民営企業の参入機会拡大、独占禁止法との整合性確保などの条項が盛り込まれていることです。
企業規制と保護のバランス
本法は民営企業への過度な規制を排除する一方で、環境保護、労働者保護、消費者権益保護、データセキュリティなどの社会的責任についても明確な枠組みを設定しています。デジタルプラットフォーム企業に対する独占規制、金融リスク管理、国家安全保障上の配慮などの観点から、適切な規制と支援のバランスを図る法的枠組みを構築しています。
国際経済との関係性
中国の民営経済促進法は、WTO（世界貿易機関）ルールとの整合性、RCEP（地域的な包括的経済連携協定）やCPTPP（包括的・先進的環太平洋パートナーシップ協定）などの多国間経済協定への対応、外資導入政策との連携などの国際的側面も考慮されています。特に、アメリカとの貿易摩擦や技術競争の文脈において、中国の技術革新能力と経済競争力を向上させる戦略的な法制度として位置づけられています。
社会主義市場経済体制との整合性
本法は中国の社会主義市場経済体制の基本原則を維持しながら、民営経済の役割と地位を法的に保障するという複雑な課題に取り組んでいます。国有企業主導の経済発展モデルと民営企業の活性化をいかに両立させるか、党の指導と市場メカニズムをどのように調和させるかという中国特有の政治経済的課題への法的回答として評価されています。
記事は、中国の民営経済促進法が他の社会主義市場経済国や発展途上国の産業政策にどのような影響を与え、国際的な企業規制・保護の潮流の中でどのような特色と意義を持つかについて、比較法的観点から専門的な分析を提供しています。