国立国会図書館が2025年8月に刊行した「外国の立法」シリーズの立法情報・翻訳・解説記事で、アメリカの公有地屋外レクリエーション経験拡大法の制定に関する法的分析を扱った専門的な立法調査報告です。
立法の背景と目的
アメリカでは国立公園局(National Park Service)、森林局(Forest Service)、土地管理局(Bureau of Land Management)、魚類野生生物局(Fish and Wildlife Service)などが管理する連邦公有地が国土の約28%を占める一方で、都市化の進展と人口動態の変化により、多様な背景を持つ国民が屋外レクリエーション活動にアクセスする機会の格差が拡大していました。特に低所得層、少数民族、身体障害者、都市部住民などの間で屋外レクリエーション体験の機会が限定的であることが社会問題として認識されており、これらの格差を解消し、すべてのアメリカ国民が公有地での屋外レクリエーション活動に平等にアクセスできる環境を整備することが立法の主要目的となりました。
法律の主要規定
公有地屋外レクリエーション経験拡大法は、連邦政府機関に対して包括的なアクセス改善義務を課しています。具体的には、身体障害者向けのバリアフリー施設整備、多言語対応の情報提供システム構築、低所得世帯向けの利用料金軽減制度、都市部からの交通アクセス改善、文化的多様性に配慮したプログラム開発などが法的要件として規定されています。また、各連邦機関は年次報告書を通じて多様性・包摂性指標の達成状況を議会に報告することが義務付けられています。
予算措置と実施体制
本法は連邦議会による予算承認を前提とした大規模な公共投資プログラムとして設計されており、初期段階で約50億ドル規模の予算措置が見込まれています。国立公園局を中心とした省庁間調整メカニズムの構築、州政府・地方自治体との連携強化、非営利団体との協働体制確立などの実施体制が法的に規定されています。
環境保護との調和
屋外レクリエーション機会の拡大は、同時に自然環境への負荷増加というジレンマを抱えています。本法は持続可能な観光政策の理念に基づき、環境影響評価の厳格化、利用者数の適切な管理、生態系保護区域の設定、環境教育プログラムの充実などの環境保護措置を統合的に規定しています。特に気候変動対策との整合性確保、生物多様性保護、水資源管理などの環境政策との調整が重視されています。
経済効果と地域振興
屋外レクリエーション産業はアメリカ経済において年間約8000億ドル規模の経済効果を生み出し、約500万人の雇用を支えています。本法の実施により、地方部の観光業活性化、関連産業の雇用創出、インフラ整備による地域経済振興などの副次的効果が期待されています。特にコロナ禍後の経済復興戦略の一環として、国内観光の促進と地域格差是正の両立を図る政策的意義が強調されています。
国際的な政策潮流との関係
本法は国連の持続可能な開発目標(SDGs)における「すべての人に包摂的で公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」目標や、「持続可能な観光」の推進という国際的な政策潮流と軌を一にしており、アメリカの環境政策・社会政策の新たな方向性を示すものとして国際的にも注目されています。
記事は、アメリカの公有地屋外レクリエーション経験拡大法が他の先進国の公園管理政策や包摂的な観光政策にどのような示唆を提供し、連邦制国家における中央政府と州政府の役割分担の新しいモデルとしてどのような特色を持つかについて、比較政策学的観点から専門的な分析を提供しています。