農林水産政策研究所国際領域の古橋元、小泉達治、小倉達也、伊藤暢宏研究員らが共同で実施した、2034年までの世界食料需給の長期予測分析結果を報告したものです。
新型コロナウイルス感染症による世界的な流行やロシアによるウクライナ侵攻の長期化、中東情勢等の不確実性の影響から、世界経済は回復途上にあるとみられる状況となっています。こうした中、多くの国で経済成長の変化や懸念され、中国等の経済にも減速感が強まっているほか、天候や気候だけでなくさまざまな要因による世界の食料需給における不確実性が増大したことから、世界の農産物等の需給・価格は大きく変動しています。
本研究では、農林水産政策研究所が公表した2022年と基準年(2021-23年の3か年平均)とする「2032年における世界の食料需給見通し」の概要について紹介した上で、新たに実施した「2034年食料需給見通し」の概要について報告しています。
世界食料需給予測モデルを使用した分析結果によると、世界全体の1人当たり実質GDPは2010-2019年平均で年率3.9%、2020-2024年平均で年率4.2%の成長率であったのに対し、2025-2034年では年率3.5%の成長率に減速すると予測されています。特に中国は新型コロナ禍からの回復が続く一方で、成長率は3.9%から2.4%へと大幅に鈍化すると見込まれています。
穀物・油糧種子の価格予測では、小麦、とうもろこし、大豆の実質価格が2024年比でそれぞれ8%、12%、15%下落すると予測されています。これは、世界人口が2034年に87億人に達する中で、農業生産性向上により供給が需要を上回ることが主要因となっています。具体的には、穀物生産量が年平均1.2%増加する一方、需要は年平均1.0%の増加にとどまるため、需給バランスが供給過多に転じることが示されています。
地域別では、アジア・太平洋地域の食料需要が引き続き世界最大となる一方、アフリカ地域では人口増加により食料需要が年率2.8%で増加し、世界全体の需要増加を牽引すると予測されています。
記事は、世界の食料需給が今後10年間で供給優位の構造に転換し、実質価格の下落傾向が続くとの見通しを示していると結論づけています。