東京大学大学院農学生命科学研究科の阪井裕太郎准教授が農林水産政策研究所レビューNo.126の巻頭言として寄稿した、水産業における鮮度管理技術の革新について論じたものです。
日本の魚類消費量は2002年の年間1人あたり40.2kgをピークに減少傾向にあり、2006年には肉類に逆転されました。この背景には、嗜好の変化、調理の手間、住環境の制約など様々な要因が指摘されている中で、特に「情報の非対称性」が重要な問題として挙げられています。消費者が魚の鮮度を正確に判断することの困難さが、魚類消費の減少要因の一つとなっているという分析が示されています。
従来の水産業界では、漁業者や仲買人、小売業者が経験と勘に基づいて鮮度を判断してきましたが、消費者には専門的な知識がないため、鮮度の良し悪しを見極めることが困難でした。近年、町の魚屋からスーパーマーケットへの販売形態変化により、消費者が販売者と直接会話する機会が減少し、魚質に関する情報がほとんど得られなくなったことが、さらに「情報の非対称性」を拡大させています。
この課題に対する解決策として、阪井准教授は鮮度の「見える化」技術の重要性を提唱しています。具体的には、IoTセンサーを活用した温度・時間管理システムや、AI画像解析による鮮度判定技術の導入により、これまで経験と勘に頼っていた鮮度評価を定量化・可視化することが可能になっています。
実際の成功事例として、2024年にマックスバリュ東海株式会社との共同研究で実施された店頭での鮮度表示実験が紹介されています。店舗において開封前に鮮度測定を行い、「最高鮮度保証シール」を貼付して単価を上げて販売した結果、鮮度表示のない従来商品と比較して販売金額が10%増加したという具体的な成果が報告されています。
この実証結果から、鮮度表示には大きなポテンシャルがあると位置づけられており、今後の水産業では鮮度がいかに適切にうまく鮮度が消費者に伝わるか分かりやすい表示が重要な競争要因となることが予測されています。
記事は、鮮度の見える化技術が単なる技術革新にとどまらず、消費者の信頼獲得と水産業界全体の競争力向上に寄与する重要な取り組みであると結論づけています。