RIETIファカルティフェローの佐藤主光氏が、消費税減税議論に対して財政的観点から反対の立場を表明した寄稿記事です。
消費税減税議論の現状
物価高やトランプ関税への対応策として、与野党で消費税減税が議論されています。具体的には、軽減税率(8%)が適用されている食料品の税率を2027年3月までの期限付きで5%やゼロに引き下げる案が中心です。さらに、食料品に限らず一律に消費税を5%まで減税すべき、あるいは消費税自体を廃止すべきという主張まで出てきています。しかし、過去に消費税率引き上げが2度にわたり延期された経緯を踏まえると、一度下げた税率を元に戻すのには相当な政治的エネルギーが必要となることが懸念されます。
財政状況の深刻さ
日本の国債残高はすでに1,000兆円を超えており、金融政策の転換に伴い国債金利は上昇傾向にあります。基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化が見込めない中で利払い費が増加すれば、財政はさらに悪化します。国債に対する市場の信認が損なわれれば、金利の急上昇を招くリスクもあります。石破首相も「消費税は全世代型の社会保障を支える重要な財源」として慎重な姿勢を示しており、人口高齢化が続く中で社会保障の持続可能性が危うくなることが危惧されています。
代替財源論の問題点
消費税減税の代替財源については、歳出改革や法人税増税から、減税による景気押し上げで税収が自然増加するという楽観論、さらには赤字国債を躊躇なく発行すべきという意見まで様々です。しかし、実態は夏の参議院選挙を見据えた「減税ポピュリズム」となっており、近視眼的な政策は将来に禍根を残しかねません。政治が将来よりも選挙対策を優先している状況が批判されています。
インフレ下での消費刺激策の問題
日本経済はインフレ基調に転じており、デフレ下の財政政策である減税による消費喚起は適切ではありません。生産量の拡大が伴わない限り、消費の増加は物価上昇を加速させてしまいます。トランプ関税で輸出が減少する懸念もありますが、米国への輸出品の約3割(約6兆円)は自動車関連であり、減税対象として挙げられる農林水産物・食品の米国向け輸出は2,000億円にとどまります。構造的なミスマッチが存在しています。
真に必要な経済対策の提言
佐藤氏は、減税以外の選択肢として、人手不足を補う労働生産性の向上などによる生産力の回復を優先すべきだと提言しています。輸出事業者に対しては緊急支援を講じるとともに、新市場開拓や業種転換を含む構造転換を進めることが望ましいとしています。また、低所得勤労者の生活支援については、彼らにとって重い負担である社会保険料を軽減すべきであり、保険料の一部を補助する給付金が消費税減税よりも直接的な支えとなると主張しています。
記事は、減税ポピュリズムではなく、生産力向上と社会保険料軽減という構造的な対策こそが必要であると結論づけています。