独立行政法人経済産業研究所が公表した、学校でのいじめ被害が児童の認知能力、非認知能力、および友人関係形成に与える影響について分析した研究論文です。
研究データと手法 日本のある自治体において収集された小学生のパネルデータを用いて、いじめ被害の多面的な影響を定量的に分析しました。過去のアウトカムを制御した付加価値モデル(value-added model)を推定することで、いじめ被害の純粋な効果を特定しています。研究はNIRA総合研究開発機構とRIETIの共同体制で実施され、教育政策のミクロ計量分析プロジェクトの重要な成果として位置づけられています。
いじめ被害の個人レベルへの影響 分析の結果、いじめ被害は児童の認知的・非認知的成果の双方に有意な悪影響を及ぼすことが明らかになりました。学力などの認知的能力の低下に加えて、非認知能力の発達も阻害されることが確認されています。さらに、いじめ被害は友人関係の形成を著しく妨げ、社会関係資本の蓄積を阻害することが示されました。
教室レベルでの波及効果 個人レベルの被害に加えて、教室内でのいじめ被害の発生率が高い環境では、翌年度における児童全体の学力に負の影響が及ぶことが判明しました。この発見は、いじめが直接の被害者だけでなく、同じ学習環境にいる他の児童にも間接的な影響を与えることを示唆しています。
政策的含意 これらの実証結果は、学校におけるいじめの効果的な予防策が、学齢期の子どもたちの人的資本および社会関係資本の形成において極めて重要な役割を果たすことを科学的に立証しています。いじめ防止は単なる道徳的課題ではなく、教育成果の向上と社会全体の人材育成にとって不可欠な政策課題であることが明確に示されました。
記事は、いじめ防止の重要性を経済学的手法により定量的に証明し、効果的な学校政策の必要性を強く示唆する研究結果を提示しています。