総務省は「持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会」の下に設置された「自治体におけるAIの利用に関するワーキンググループ」において、2025年7月23日に第6回会合を開催し、報告書案を取りまとめました。本ワーキンググループは、人口減少や職員数の制約が深刻化する中で、自治体におけるAI活用の可能性と課題について実証的な検討を行った重要な政策提言です。
検討の背景として、地方自治体では人口減少に伴う税収減少と行政需要の多様化・複雑化が同時進行しており、限られた人的・財政的資源での効率的な行政運営が急務となっています。同時に、AI技術の急速な発達により、行政事務の自動化・効率化や住民サービスの質的向上の可能性が高まっており、自治体におけるAI導入の意義と課題の整理が必要となっています。
現状分析では、全国の自治体におけるAI活用の実態調査結果が示されています。2024年時点で、何らかのAI技術を導入済みの自治体は全体の約32%(都道府県では85%、政令市では95%、市区町村では28%)となっており、自治体規模による導入格差が顕著となっています。導入分野別では、文書作成支援(45%)、問い合わせ対応(チャットボット)(38%)、データ分析・予測(33%)、画像・音声認識(25%)の順となっています。
AI活用の効果について、導入済み自治体を対象とした効果測定では、業務時間の削減効果が平均20-30%、住民満足度の向上が約15ポイント、業務品質の向上効果も確認されています。特に、定型的・反復的業務においては顕著な効率化効果が認められ、職員がより創造的・専門的業務に専念できる環境の実現に寄与しています。
具体的な活用事例として、住民税計算業務のAI化により年間約500時間の業務時間削減を実現した事例、AI翻訳システムの導入により外国人住民への窓口対応時間を60%短縮した事例、AIを活用した道路損傷検知システムにより点検業務の効率を70%向上させた事例などが紹介されています。
課題と対応策については、技術的課題、制度的課題、人材育成課題の3つの観点から整理されています。技術的課題としては、AI精度の向上、システム間連携の改善、セキュリティ対策の強化が挙げられています。制度的課題では、AI判断の法的責任の明確化、プライバシー保護規制との調整、調達手続きの簡素化などが重要課題として位置づけられています。
人材育成については、AI技術に関する知識・スキルを持つ職員の育成が急務とされ、体系的な研修プログラムの整備、外部専門人材の活用促進、職員のデジタルリテラシー向上などの施策が提言されています。特に、小規模自治体における人材不足は深刻で、広域連携や共同調達による課題解決が重要とされています。
今後の推進方策として、国・都道府県・市町村の役割分担が明確化されています。国は技術標準の策定、法制度の整備、財政支援、人材育成支援を担い、都道府県は域内自治体への技術支援・助言、共同利用システムの構築を行い、市町村は具体的なAI導入・運用と効果測定を実施するという枠組みが提示されています。
財政支援については、AI導入に係る初期費用、システム維持費用、人材育成費用に対する国庫補助制度の充実が提言されています。特に、小規模自治体や財政力の乏しい自治体に対しては、特別交付税措置や起債措置による支援の拡充が必要とされています。
報告書では、2030年までに全自治体においてAI技術を活用した業務効率化と住民サービス向上を実現することを目標として掲げ、段階的な導入推進と継続的な効果測定による持続可能なAI活用体制の構築を目指すとしています。