農畜産業振興機構が報告した豪州赤身肉業界のカーボンニュートラル目標撤回について、業界の方針転換とその背景を分析したものです。
豪州の赤身肉業界は、2017年に2030年までにカーボンニュートラルを達成するという野心的な目標を掲げ、世界の畜産業界から注目を集めていました。しかし、2025年に入り、この目標を正式に撤回することを発表しました。この決定は、目標達成の現実的な困難さと、生産者の経済的負担への懸念が主な要因となっています。
当初の計画では、メタン排出削減技術の導入、放牧地の炭素貯留能力向上、再生可能エネルギーへの転換、植林による炭素オフセットなどの包括的な対策により、温室効果ガスの実質排出ゼロを目指していました。しかし、実施過程で様々な課題が明らかになりました。特に、反芻動物であるへい牛から発生するメタンの削減は技術的に困難であり、飼料添加物による削減効果も限定的でした。また、広大な放牧地での炭素貯留量の正確な測定・検証システムの構築にも多大なコストがかかることが判明しました。
生産者からは、カーボンニュートラル達成のための追加投資が経営を圧迫するとの声が強まっていました。特に、中小規模の生産者にとっては、必要な設備投資や認証取得コストが大きな負担となり、業界内での格差拡大への懸念も高まっていました。また、国際競争力の観点から、他の主要牛肉生産国が同様の目標を設定していない中で、一方的なコスト増は不利になるとの指摘もありました。
目標撤回後も、豪州赤身肉業界は持続可能性への取組を継続するとしていますが、より現実的で段階的なアプローチを採用する方針です。具体的には、生産効率の向上、放牧管理の最適化、再生可能エネルギーの段階的導入など、経済性と環境配慮を両立させる施策に重点を置くことになります。
記事は、畜産業における環境目標の設定と実現の難しさ、そして産業の持続可能性と経済性のバランスをどう取るかという世界的な課題を浮き彫りにしています。