摂南大学農学部と国際農林水産業研究センターの研究者が2025年8月に報告した、2024年8月19-22日にタイ・パタヤ市で開催された国際甘しゃ糖技術者会議(ISSCT)農業部門ワークショップの参加報告書です。
ワークショップ概要
「BCG経済に向けて、経済回復と持続可能なサトウキビ産業を推進するスマート農場」をテーマに、20カ国以上から約120人が参加し、口頭発表20課題、ポスター発表23課題が実施されました。タイ政府が掲げるBCG経済(Bio-Circular-Green経済:生物資源活用、循環型、グリーン経済の統合モデル)とスマート農業に焦点を当てた国際会議でした。
タイのバーンハーベスト削減政策
タイでは従来、畑の火入れを行って葉や梢頭部を焼却してから収穫する「バーンハーベスト」が主流でしたが、PM2.5濃度上昇の主因(全排出量の30-50%)となっていました。政府は段階的な規制強化により、1日当たりのバーンハーベスト原料搬入を50%以下(2019年)から25%以下(2024年)に制限し、バーンハーベスト原料には1トン当たり30バーツ(136円)から130バーツ(588円)のペナルティ、グリーンハーベスト原料には120バーツ(542円)の価格引き上げを実施しました。
この結果、バーンハーベスト割合は60%超(2019年以前)から2024/25年期には過去最低の17.5%まで減少しました。機械収穫率も2015/16年期の25%から現在は70%まで大幅に向上し、グリーンハーベスト推進の基盤となっています。
日本の研究発表内容
南大東島でのサトウキビスマート農業プロジェクトとして、渡邉研究員が気象データに基づく地中点滴かん水システムの3年間の実証試験結果を発表しました。地中かん水区は常に地表かん水区や農家管理区より単収と水利用効率が高く、株更新時までチューブ回収・再設置が不要な効率的手法であることが実証されました。
寳川研究員は持続可能なサトウキビ生産に向けた2つの革新的コンセプトを提示しました。①マルチスケール水利用効率:葉・株・群落・圃場・地域の各スケールでの水利用効率を統合的に評価する手法、②遺伝的多様性の高度利用:異品種混植や多系交雑集団栽培による「進化育種」手法の導入で、収量安定性と環境ストレス耐性の向上を目指します。
海外研究動向
南アフリカではスマートフォンアプリ「PurEst」によるサトウキビ成熟度のオンサイト診断技術、ドローンによるマルチスペクトル画像を活用した品質管理システムが開発されています。米国では小型近赤外線分光計を用いた現場での糖分析技術が実用化段階に入り、Brix(可溶性固形分)の推定精度が特に高く、育種プログラムでの活用が開始されました。
各国共通の課題として「欠株」対策が議論され、豪州では「yield gap」として体系化し、ドローンによる欠株箇所特定と補植機械化による持続可能な対策が提案されました。
クボタファーム視察
2020年設立のクボタファーム(チョンブリー県、35ヘクタール)では、最先端農業技術の実証が行われており、自動操舵による作業、完全無人自動運転のデモンストレーション、立毛茎対象の脱葉機によるグリーンハーベスト促進技術、ドローンによる農薬・液肥散布、GISによる圃場管理などのスマート農業技術が紹介されました。
記事は、持続可能性とスマート農業がグローバルな共通課題となっており、現場への技術実装の重要性と国際連携の必要性を強調し、日本での国際会議開催実現への意欲を示して結論づけています。