本記事は、日本銀行が2013年4月から2025年3月までの期間において実施した国債補完供給の要件緩和措置が、レポ市場における国債需給に及ぼした影響について、銘柄別の日次パネルデータを用いて定量的に分析したものです。
主要なポイント
国債補完供給制度の概要と背景
- 日本銀行は2004年4月に国債補完供給制度を導入し、保有する国債を市場参加者に一時的・補完的に供給
- 2013年4月の量的・質的金融緩和(QQE)開始以降、大規模な国債買入れにより国債需給の逼迫に備えて要件緩和措置を実施
- 2022年半ばから2023年初めにかけて国債補完供給の利用額は1日当たり8兆円超まで増加
- 日本銀行の国債保有比率が80%を超える銘柄では、GC-SCスプレッドが非線形的に拡大する傾向
主要な要件緩和措置の効果
- 最低品貸料の引き下げ(2013年4月:1.0%→0.5%、2019年6月:0.5%→0.25%)がレポ市場の需給緩和に寄与
- 連続利用日数上限の引き上げ(2015年3月:5日→15日、2016年1月:15日→50日)が需給緩和効果を発揮
- 要件緩和措置による需給緩和効果は、日本銀行の国債保有比率が高くなると非線形的に大きくなることが判明
- チーペスト銘柄等については2022年6月に連続利用日数を50日から80日に引き上げ
実証分析の結果
- 2013年4月から2025年3月までの国債の銘柄別日次パネルデータを使用した分析を実施
- 最低品貸料の引き下げと連続利用日数上限の引き上げが、GC-SCスプレッドを有意に縮小させることを確認
- 日本銀行の保有比率が高い銘柄ほど、要件緩和措置の効果が有意に大きくなることを実証
- パネル固定効果モデルとパネル変量効果モデルの両方で一貫した結果を確認
チーペスト銘柄等の減額措置
- 2019年6月から日本銀行の保有比率が80%を超えるチーペスト銘柄等を対象に減額措置を実施
- 減額措置は日本銀行が貸し出した国債を金融機関が買い取る措置で、市場の流動性改善に寄与
- 2022年度には約2.1兆円、2024年度には約1.4兆円の減額措置を実施
- 実証分析により、減額措置が当該銘柄のGC-SCスプレッドを縮小させる効果を確認
今後の展望と留意点
- 2024年夏場以降の国債買入れ減額に伴い、国債補完供給の利用額は減少傾向
- 分析には量的・質的金融緩和やイールドカーブ・コントロールの環境変化の影響を完全に識別できていない制約
- 国債補完供給制度は国債市場の流動性向上と円滑な市場機能の維持に重要な役割を継続
- 本研究は中央銀行の国債補完供給の要件緩和措置の効果を定量的に示した初めての包括的な研究
記事は、日本銀行による国債補完供給の要件緩和措置が、大規模な国債買入れが継続する中でレポ市場の流動性向上や円滑な市場機能の維持に大きな役割を果たしてきたことを実証的に明らかにし、今後の国債補完供給制度のあり方を検討する上で重要な知見を提供したと結論付けています。