本記事は、2025年6月1日にウクライナ保安庁(SBU)が実施した「クモの巣」作戦について、その技術的側面から詳細な分析を行い、オープンソース技術とAIを組み合わせた現代的なドローン戦術が、従来の防衛概念を覆す可能性を示唆したものです。
主要なポイント
作戦の規模と成果
- ロシア空軍の戦略爆撃機Tu-95MS、Tu-22M3、早期警戒管制機A-50を含む41機が破壊され、被害総額は70億ドルに達した
- ロシア空軍の戦略爆撃能力の34パーセントに相当する損害を与えた
- ウクライナから1,800キロメートル離れたムルマンスク州オレーニャ基地、4,500キロメートル離れたイルクーツク州ベラヤ基地を含む4カ所のロシア軍基地を同時攻撃
- 117機のFPVドローンが投入され、各機に1人のオペレータが配置された
- 1年半以上前から周到に準備された作戦で、100機以上の小型ドローンがロシア国内のチェリャビンスクの秘密施設に運び込まれた
技術的イノベーション
- ロシア国内の4G/LTEモバイル通信ネットワークを活用し、プリインストールされたSIMカードを使用してウクライナ国内から遠隔操作
- オープンソースの自動操縦ソフトウェアArduPilotを使用し、GPS妨害を回避しつつ推測航法による安定飛行を実現
- 民間のデータ・トラフィックに制御信号を埋め込むことで探知を困難にし、UARTインターフェイスを介して制御信号を受信
- 巡航制御モードで複数の中継点(ウェイポイント)を設定し、事前設定した飛行ルートをたどる自動操縦を維持
- 通信途絶時のフェイルセーフ機能により、ドローンの高度・速度・方向をロックし一定期間飛行経路を維持
AI搭載型ドローンOSAの特徴
- ウクライナのFirst Contact社が開発したOSAドローンを使用、ペイロード最大3.3キログラム、飛行時間最大15分、速度時速150キロメートル
- 電子機器や配線が機体内部に収納された堅牢な閉鎖構造で、悪天候や劣悪な道路事情に対応
- Raspberry Pi小型コンピュータ(約85ミリメートル×56ミリメートル、重さ50グラム未満)を搭載し、AI処理を実現
- 着陸用スキッドに焼夷剤を含んだ成形炸薬を埋め込み、航空機の脆弱部位への精密打撃を実現
- 2024年1月時点でAI組み込み無人機システムの開発を完了し、最終テストを開始していた
AIによる終末誘導システム
- 信号喪失時に事前計画ルートに沿ってAIを使用した自律飛行モードに切り替わり、目標に接近・接触すると弾頭が自動起爆
- ポルタヴァの軍事博物館に保管されていた旧ソ連時代の爆撃機画像数百枚を使用し、機械学習によるAI開発を実施
- Tu-95MSとTu-22M3の燃料タンク箇所を赤色×印でマークし、機体の脆弱部をターゲットとして特定
- アメリカのAuterion社が開発したSkynode-S終末誘導ソリューションを搭載した可能性
- エポック(学習回数)作業を繰り返し、さまざまな角度・照明・気象条件でのターゲット認識を検証
作戦実行の詳細分析
- イルクーツク州ベラヤ空軍基地攻撃では、トレーラから基地まで約6キロメートルを6分で飛行(時速約60キロメートル)
- 強風による速度抑制とバッテリー消耗により、基地到着後の攻撃時間はわずか9分間に制限
- モバイル・ネットワークの帯域幅制限により、ドローンは同時発進ではなく順次発進を実施
- 2~3秒の信号遅延、気象条件、電波妨害リスクの中で、AIによる自律誘導がミッション成功の不可欠なバックアップ手段として機能
- 木製コンテナの開閉式屋根を遠隔操作で開き、ドローン発進後にトレーラを自爆させる一連の流れも4G/LTE経由で制御
記事は、わずか数千ドルのアセットで数億から数十億ドル規模の損害を与えることができる費用対効果の高さと、世界中に張り巡らされたICTインフラを活用することで、これまで作戦範囲外と考えられてきた地域へのアクセスが可能になったという新しい現実を指摘し、国家のみならず非国家主体にとっても魅力的な選択肢となり得ると警鐘を鳴らしています。