経済産業研究所の最新分析によると、企業売上や個人所得の分布がべき乗則（Zipf's law）に従うという現象について、従来の理論モデルの問題点を解決する新たな説明が提示された。荒田禎之研究員、吉川洋東京大学教授、岡本慎吾税務大学校らによる研究では、既存モデルが実証データと矛盾する点を指摘し、代替的な理論を提案している。
従来の理論モデルでは、企業が巨大企業に成長したり、個人が高所得者になるまでに要する時間が、実際のデータで観察される期間よりもはるかに長いという問題があった。また、実証データでは若い企業や個人の規模分布においてもZipf's lawが成立しているが、これは年齢の高い企業・個人においてZipf's lawが成立するとする既存モデルの予測と矛盾していた。
本研究は、企業売上や個人所得の成長率分布が重いテール（heavy tail）を持つことに着目し、売上や所得の成長ダイナミクスが短期間の急激な成長によって特徴づけられることを示した。つまり、巨大企業や高所得者の誕生は、長期間の緩やかな成長の結果ではなく、過去の急成長の結果として生じるという。この急成長メカニズムによってZipf's lawが形成されることを理論的に証明し、実証データとの整合性を示した。
経済産業研究所は、このような企業売上と個人所得に共通する成長ダイナミクスの特性がZipf's lawの本質を反映しており、経済の非対称性を理解する上で重要な知見であると評価している。