経済産業研究所(RIETI)が2025年夏号として発行した政策研究の季刊誌で、「政策現場に役立つ経済学」を特集テーマとした重要な政策提言集です。本号では、理論経済学と実際の政策現場との架け橋となる実践的な経済学研究の成果を多角的に紹介し、政策立案者や実務家にとって有用な知見を提供しています。
特集の背景として、近年の経済環境の複雑化に伴い、政策現場においてより精緻で実証的な経済分析の必要性が高まっていることが挙げられます。従来の理論経済学だけでは対応困難な実際的な政策課題に対し、行動経済学、実験経済学、計量経済学等の新しいアプローチを活用した政策提言の重要性が増しています。
主要論文として、デジタル化時代の競争政策については、プラットフォーム経済における市場支配力の測定手法と規制のあり方について詳細な分析が行われています。特に、GAFAなどの巨大IT企業の市場支配が伝統的な競争政策の枠組みでは捉えきれない新しい課題を提起していることを指摘し、データ独占や技術的囲い込みに対応した新たな規制アプローチの必要性を論じています。
労働市場政策の分野では、人手不足と労働力不足の同時解決に向けた政策提言が注目されます。特に、非正規雇用から正規雇用への転換促進策、職業訓練制度の効果測定、女性・高齢者の労働参加促進策について、実証データに基づく政策効果の検証結果が示されています。また、外国人労働者の受け入れ拡大に伴う労働市場への影響分析も含まれており、技能実習制度や特定技能制度の改善点について具体的な提言が行われています。
地域経済政策については、地方創生政策の効果測定と改善策について包括的な分析が展開されています。特に、企業誘致政策、観光振興策、農業振興策の費用対効果分析を通じて、限られた財政資源の効果的配分のあり方を検討しています。また、地域間格差の拡大抑制に向けた再分配政策の効果についても、最新の実証研究結果を踏まえた政策提言が示されています。
環境・エネルギー政策では、カーボンニュートラル実現に向けた経済政策の設計について詳細な検討が行われています。炭素税、排出量取引制度、再生可能エネルギー固定価格買取制度などの政策手段の比較評価を通じて、最も効率的で実現可能な政策ミックスの提案が行われています。また、グリーン技術開発への補助金政策の効果測定や、企業の脱炭素投資に対するインセンティブ設計についても具体的な分析結果が示されています。
社会保障政策の分野では、高齢化社会に対応した持続可能な制度設計について経済学的視点からの提言が展開されています。年金制度改革、医療制度改革、介護制度改革それぞれについて、財政影響、世代間公平性、経済成長への影響を総合的に評価した政策提言が示されています。特に、マクロ経済スライド制度の効果検証や、医療・介護サービスの生産性向上策について実証的な分析結果が提供されています。
政策評価手法の改善については、ランダム化比較試験(RCT)、差分の差分法、回帰不連続デザインなどの因果推論手法の政策現場への応用事例が紹介されています。これらの手法を活用することで、従来の政策評価では見落とされがちな真の政策効果を測定することが可能となり、エビデンスに基づく政策立案(EBPM)の実現に向けた具体的な道筋が示されています。
本号は、政策研究者、政府関係者、民間企業の政策担当者、学術研究者などの幅広い読者層を対象としており、理論と実践の架け橋となる実用的な知見の提供を目的としています。