経済産業研究所が公表した「サプライチェーンの課題 『歴史的転換期』の認識を」について、グローバルサプライチェーンが直面する課題と長期的な対応の必要性を分析したものです。
トランプ第2期政権による急激な関税引き上げとその脅しに直面する中、当面の課題対応だけでなく、とらえにくい趨勢の変化を見据えた長期的な対応が重要であるとしています。日米中3国間の貿易構造を確認すると、日本からの輸出は部品や資本財中心の構造に移行し、中国からの輸出も日本向け・米国向けともに部品と資本財を合わせると約半分を占めるに至っています。これらの財は差別化が進み特定用途に適合し代替が難しいため、関税引き上げによる国産切り替えには長期を要することが指摘されています。
サプライチェーン組み替えには新サプライヤーの探索や契約・調整コストを要するため、すぐに取り消されたり延期を繰り返したりする関税政策下では企業は様子見になります。長期的判断には信頼に基づく予測可能性を高めることが重要で、予測を困難にして機会主義的に取引を有利に導こうとする短期的視点とは相いれないとしています。
国際貿易理論モデルにおいて経済厚生を決める重要な数値は、当該財のシェアと代替の弾力性です。業種レベルから企業、財、取引別へとミクロに解像度を上げていくことが求められ、2次、3次と遡ってサプライヤーを把握している企業が少ないことは懸念材料となっています。関税引き上げの影響については間接的な面も含めて議論する必要があり、グローバル化により中間財貿易の比重が高まったことが関税の影響を見えにくくしています。輸入中間財に課される関税が輸出最終製品の国際競争力に間接的に響き、第1期政権の限定的な関税引き上げでさえ、米国からの2019年における輸出に2％を超える税を課したのと同等の影響があったとの試算があります。
さらに、サービス貿易やデジタルデータの越境移転の重要性も指摘されています。近年停滞してきた財の貿易に対し、サービス貿易やデータ流通は拡大を続け、グローバル化の主役は財から交代したように見えます。人工知能（AI）などの広がりもあり、グローバルサプライチェーンはもはや部品や素材などの中間財だけでなく、サービスやデータの流れと一体でとらえなければならないとしています。
長期的な趨勢として、今世紀に入ってからの世界貿易は、リーマン・ショック、コロナ禍、ウクライナ戦争と次々に災厄に見舞われ、それまでの持続的拡大から一転、縮小や停滞を続けてきました。世界貿易は関税引き上げ以前に歴史的転換期に入っていたと見るべきで、米ソ冷戦後のグローバル時代から米中対立が軸の時代に転じたことを認識する必要があります。
記事は、関税という目につきやすい問題だけでなく、長期的取引関係が重要な中間財や目につきにくい無形のサービスやデータの国際取引を円滑化する必要があり、法の支配の原則といった市場経済を支える制度的基盤を長期を見据えて各国が協調して整備していく必要があると結論づけています。