ジェトロが公表した「ASEANにおけるデジタル分野の企業動向および日系企業へのヒアリング調査」について、約7億人の人口を擁するASEANデジタル市場における企業動向と日系企業の課題を包括的に分析したものです。
報告書では、ASEAN市場において情報通信技術(ICT)、人工知能(AI)、ビッグデータ解析、データセンター・クラウドサービス、半導体などの分野で、米国、欧州、中国、韓国のグローバル企業が市場を牽引している現状を詳述しています。欧州からはEricsson、Nokia、SAP SEが、米国からはGoogle、Microsoft、Amazon、IBMが、中国からはHuawei、Alibaba、Tencentが、韓国からはSamsung、SK Hynixなどが参入し、各国で戦略的な事業展開を行っています。
特筆すべき企業動向として、Ericssonはマレーシアで国営企業DNBの主要パートナーとして5Gネットワーク構築を担い、2024年までに全国カバー率80%達成を目標としています。インドネシア新首都ヌサンタラでは、AIを活用した通信インフラ整備プロジェクトを推進し、世界初のフルスタックデジタルマネタイゼーションプラットフォーム(DMP)を開発しました。SAPはシンガポールを地域統括拠点として1,200万ドルを投資し、デジタルイノベーションアクセラレーターを設立、ASEAN各国で「ASEAN Data Science Explorers」プログラムを展開しています。
GoogleはASEAN6カ国すべてでビッグデータプラットフォームサービスを提供し、各国で大規模なデータセンター投資を実施しています。シンガポールでは2024年までに4つ目のデータセンターを完成予定、タイでは10億ドル、マレーシアでは20億ドルの投資を発表しました。MicrosoftもAzureソリューションを通じて積極的な展開を行い、タイの「AIナショナルスキルイニシアティブ」、マレーシアの「AI TEACH」プログラム、フィリピンの医療向けAIアシスタント「Dragon Copilot」など、各国独自の取り組みを推進しています。
日系企業へのヒアリング調査では、金融、物流、ヘルスケア、小売業など多様な分野でデジタル技術を活用し、業務効率化や新たなビジネスモデル創出に取り組んでいることが明らかになりました。製造業ではAIやローコード開発ツールの導入により競争力強化を図っています。しかし、最大の課題として「デジタル人材の確保と育成」が挙げられ、データローカライゼーション規制、個人情報保護法、サイバーセキュリティ強化など各国の法制度への対応も重要な経営課題となっています。
ASEAN全体としては、ASEANデジタル経済枠組み協定(DEFA)など広域的な政策が進展しており、地域のデジタル経済政策の方向性を見極める必要性が高まっています。報告書は、日系企業が欧米や中国企業に劣後しないためには、デジタル人材の確保・育成への投資強化、各国の規制動向への機動的な対応、現地パートナーとの戦略的提携、ASEANの地場企業との協業などが不可欠であると提言しています。
記事は、ASEANのデジタル経済が急速に成長し関連法規制も変化し続ける中で、日系企業は継続的な情報収集と戦略的な対応により、増大するリスクへの備えと新たなビジネス機会の獲得を両立させる必要があると結論づけています。