日本銀行金融研究所が2025年7月に発行した金融研究第44巻第3号について、気候ファイナンス研究の進展をテーマとした内容を解説したものです。
本号は2024年11月8日に開催されたファイナンス・ワークショップ「気候ファイナンス研究の進展」の模様を中心に構成されており、3つの研究報告と台帳を用いない決済方式に関する技術面からの考察が含まれています。平木一浩(国際通貨基金)による基調報告では、金融市場の価格発見・リスク移転機能と金融仲介機能の観点から気候ファイナンス研究の最新動向を概観し、炭素排出量の少ないグリーン銘柄と多いブラウン銘柄の株価リターン比較分析、ESG投資を考慮したCAPMモデルの理論的枠組み、サステナブル投資が企業行動に与える影響などが議論されています。
沖本竜義(慶應義塾大学)と鷹岡澄子(成蹊大学)の共同研究では、2005年から2019年までの日本のCDS市場データを用いて、企業の炭素排出量とクレジット・デフォルト・スワップスプレッドの関係を実証分析し、2006年以降に投資家のESG認識の高まりとともにカーボン・リスク・プレミアムが拡大していることを示しました。セクター別分析では、ヘルスケア・通信・テクノロジー・金融など排出量削減が容易なセクターでエネルギー・素材など削減困難なセクターよりも大きなプレミアムが観察されています。
議論では多くの専門家が参加し、ESGスコアのばらつき問題、グリーンウォッシュの存在、気候関連データの整備の重要性、日本政府のGX債を活用したグリーニアム分析の可能性、中央銀行の金融安定における役割などが活発に議論されました。台帳を用いない決済方式についても技術的観点から詳細な考察が行われています。
記事は、気候ファイナンス研究が急速に進展する中で、データ蓄積と分析手法の高度化により実証研究が重要性を増しており、ESG投資の実効性向上やグリーンファイナンスの発展に向けた課題解決が求められることを示しています。