経済・物価情勢の展望(10月、基本的見解)
概要
日本銀行は、2026年度の日本経済について、中東情勢を受けたエネルギー・原材料高が下押しする一方、AI関連需要、政府施策、緩和的な金融環境などが支え、伸び率を縮小しつつ緩やかに成長すると見込む。2027年度以降は所得から支出への循環が強まり、成長率は緩やかに高まる。消費者物価(除く生鮮食品)は2%をはっきり上回る水準まで伸びた後、原油高の影響が弱まるにつれて2%程度へプラス幅を縮小する見通し。経済見通しのリスクは概ね均衡する一方、物価見通しでは上振れリスクが大きい。日本銀行は見通しの実現確度とリスクを点検しながら政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整する方針を示した。
要点
- AI関連需要は輸出・設備投資を支える一方、投資収益が伴わない場合の調整圧力や、関連材料・部品の需要を通じた価格上昇リスクにもなる。
- 経済見通しのリスクは概ね均衡するが、消費者物価見通しでは上振れリスクが大きい。
- 政策金利の調整時期とペースは、中心的な見通しの実現確度とリスクを点検して検討する。
概要
景気は一部に弱めの動きがあるものの緩やかに回復し、海外経済も総じて緩やかに成長している。輸出はAI関連需要を背景に増加し、企業収益は高水準、業況感は良好である。設備投資は緩やかな増加傾向、個人消費は雇用・所得環境の改善に支えられ底堅い一方、住宅投資は減少傾向、公共投資は横ばい圏内にある。労働需給は引き締まり、金融環境は緩和状態にある。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比と予想物価上昇率は、足もとでともに2%程度である。
2026年度は、春先以降のエネルギー・原材料価格上昇が企業収益や家計の実質所得を下押しするが、AI関連需要、雇用・所得環境の改善、政府施策、緩和的な金融環境が経済を支え、成長率を縮小させながら緩やかな成長が続く。2027年度以降はエネルギー・原材料高の影響が弱まり、所得から支出への循環が強まって成長率を緩やかに高める見通しである。潜在成長率は小幅のプラスが続くとされる。
消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、賃金上昇の価格転嫁、原油高、半導体価格上昇、過去の円安を背景に2%をはっきり上回る水準まで伸び率を高めた後、原油高の影響が弱まるにつれて2%程度へプラス幅を縮小する見通しである。人手不足のもとで賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇する仕組みが働き、基調的な上昇率は物価安定目標と概ね整合する水準で推移するとみる。
影響
飲食料品の消費税率引き下げは今回の見通しに織り込まれていない。税制改正大綱を前提に対象品目すべてへ変更を適用した機械計算では、2027年度の消費者物価前年比を、除く生鮮食品で-1.3%ポイント程度、除く生鮮食品・エネルギーで-1.4%ポイント程度押し下げる。経済の成長率を押し上げる方向に作用する可能性が高いが、その程度は不確実性が高い。
詳細
企業部門では、輸出は中東情勢の影響を受けつつAI関連需要に支えられて緩やかに増え、交易条件の悪化があっても企業収益は高水準を保つ見込みである。受注残の解消、政府の経済対策、緩和的な金融環境が設備投資を支える。家計では、引き締まった労働需給と前年並みのベースアップのもとで名目賃金が着実に増える。消費は賃金、株価の資産効果、政府の所得移転が下支えする一方、物価上昇や天候要因から横ばい圏内と見込む。住宅投資は住宅価格や人口動態を反映して緩やかに減少し、公共投資は横ばい、政府消費は医療・介護費や防衛関連支出を反映して緩やかに増える。2027年度以降は、省力化、AI・データセンター、貿易構造やサプライチェーンの変化への対応投資が設備投資を支え、物価上昇ペースの落ち着きとともに個人消費は緩やかな増加基調に復する見通しである。
原油価格は先物市場などを参考に見通し期間終盤へ低下すると想定するが、代替調達の輸送コストなどから国内企業の調達価格は国際市況ほど下がらない見込みである。燃料油補助金などのエネルギー負担緩和策や教育無償化政策は2026年度の消費者物価を押し下げる。エネルギーを除く消費者物価も、原油高、半導体価格、円安の影響で2%を超えた後、原油高の影響の減衰に伴って伸びを縮めるとみる。前回見通しと比べ、成長率は期間を通じ概ね不変で、消費者物価(除く生鮮食品)は2027年度に幾分上振れ、同・エネルギーを除く指標は概ね不変である。需給ギャップは小幅なプラスで推移し、労働需給はそれ以上に引き締まっている。
主なリスクは中東情勢、AI関連需要、為替相場の変動である。中東情勢は不透明で原油価格の振れが大きく、供給懸念や備蓄減少を背景に調達費がさらに上がれば、企業収益や家計の実質所得を想定以上に圧迫しうる。AI投資は世界経済を押し上げる可能性がある一方、収益が投資に見合わなければ資産価格変動を伴う調整圧力となる。AI関連の材料・部品の需要が想定以上に増えると、幅広い品目の価格上昇につながる可能性もある。円安はグローバル企業の収益を支える反面、輸入物価を通じて家計の実質所得や中小企業収益を押し下げ、価格転嫁を通じて物価へ波及しうる。ほかに、世界的な金融環境の変化、財政拡張、中国の成長や過剰供給、穀物価格、地政学的リスクが挙げられる。長期的には、人手不足が省力化投資や成長期待を高める可能性と、資本・労働の代替が進まず供給制約が成長を抑える可能性の双方がある。
金融政策運営では、「物価安定の目標」のもとで二つの柱による点検を行う。第1の柱では中心的見通しと金融環境を確認する。実質金利は上昇しているものの短期ゾーンを中心に低く、企業収益に対する金利コストも低い。資金需要は増加し、金融機関の貸出態度は積極的で、CP・社債の発行環境も良好であるため、金融環境は緩和状態を維持している。第2の柱では政策運営上重視するリスクを点検する。金融仲介は円滑で大きな不均衡はなく、金融システムは安定性と相応の頑健性を保つ一方、不動産・株価、中東情勢、AI投資の収益性と資金調達、海外ノンバンクの動向を注視する。日本銀行は、物価目標の持続的・安定的な実現に向けて、経済・物価・金融情勢に応じて政策金利を引き上げ金融緩和の度合いを調整する考えであり、時期とペースは見通しの確度やリスクを点検して検討する。