金融システムレポート(2026年10月号)
概要
日本銀行は、内外の金融市場や国内の金融機関を取り巻く環境を踏まえ、わが国金融システムの安定性を点検した。AI関連投資の収益性や資金調達、中東情勢、海外ノンバンク部門、金利上昇、サイバー脅威などのリスクを検討し、マクロ・ストレステストではショックの増幅も想定した。金融システムは全体として安定性を維持し、金融機関は充実した資本・資金調達基盤を有すると評価する一方、資産価格や企業・家計の信用リスク、金融機関の収益・損失吸収力を継続して点検する必要があるとした。
要点
- わが国金融システムは全体として安定性を維持している。
- 複合的なストレスを想定したマクロ・ストレステストでも、安定性を維持できると評価された。
- AI関連投資、海外ノンバンク、中東情勢、金利上昇、資産価格、サイバー脅威が点検対象となった。
概要
内外市場では、中東情勢を巡る不確実性が高い一方、グローバルなAI関連需要の拡大が市場センチメントの改善に作用し、株価は上昇、社債スプレッドは低水準で推移した。日本銀行はこの環境を踏まえて、わが国金融システムの安定性を点検した。分析は原則として2026年9月末までに利用可能な情報に基づく。
貸出市場では企業の資金需要が増加し、金融機関の積極的な融資姿勢のもとで金融仲介は円滑に行われ、現在の金融活動に大きな不均衡はみられない。金融機関はリーマンショック型や地政学リスク、AI期待の縮小、金利大幅上昇が重なるストレスに耐え得る資本基盤と安定的な資金調達基盤を有すると評価された。
人口減少などを背景に企業の借入需要が構造的に減る状態が続けば、貸出市場の需給次第で金融機関の収益力・損失吸収力が低下し、金融仲介の停滞または過度な利回り追求につながる可能性がある。将来の安定確保には、停滞と過熱の両方向のリスクを点検し、動向を注視する必要がある。
影響
サイバーインシデントは個々の金融機関や利用者のリスクであると同時に、影響が他の金融機関へ広がり得るため、マクロプルーデンス上も重要なリスクとされる。個々の金融機関と金融システム全体のレジリエンス向上が求められる。
詳細
株価はトレンドから上方に乖離している一方、9月末時点のPERは予想EPSの上昇のもとで、概ね2008年以降の平均並みだった。株式期待益回りと10年物国債金利の差は金利上昇を受け幾分低下したが、やや長い目では高めの水準を維持した。AI投資に見合う収益拡大が実現しない場合の株価調整が意識されており、金融機関の株式リスク量も踏まえて動向を注視する。
不動産価格は景気回復と物価上昇を受けて上昇し、賃料に対する比率は概ねトレンドに沿う。首都圏を中心に三大都市圏では上昇ペースが高まった。供給制約、堅調な物件需要、投資用マンションや海外投資家による商業用不動産取引が寄与した可能性がある。東京の商業用不動産のイールドギャップは価格上昇と金利上昇を受け低下しており、きめ細かな観察が必要とされた。
国内ノンバンクの金融資産シェアは他国より低めだが、国内金融機関の海外ノンバンク向け投融資と、海外ノンバンクによる本邦株式・債券投資は海外ファンド関連を中心に増加している。米国中心にハイパースケーラーの設備投資が増え、社債などの外部調達や長期リース利用が目立つ。自己資金で賄えない部分ではプライベートファンドなどが資金の出し手として存在感を増し、ヘッジファンドのAI関連銘柄保有割合も高まった。期待縮小時にはポートフォリオ調整がショックを増幅し、本邦へ伝播する可能性がある。
AI関連投資の収益性に関する将来期待の縮小を精緻化し、海外ノンバンクのポートフォリオ調整による増幅も想定してマクロ・ストレステストを実施した。結果は金融システムが安定性を維持できるとの評価だったが、グローバルなAI需要の持続性と影響を引き続き丁寧にみる必要がある。
企業倒産やデフォルト率は感染症拡大前を上回るものの横ばい圏内にある。中小企業では収益分布の格差が大きく、下位先は赤字圏で横ばいだった。中東情勢に伴う原材料・エネルギー価格上昇は、特に中小企業の収益を下押ししているとみられる。原油価格が100%上昇する想定では、デフォルト確率が上昇する中小企業の割合は総じて限定的だが、影響を受けやすいコスト構造の企業群の一部では相応の上昇がみられる。
企業では実質無借金企業が趨勢的に増え、借入超企業でもICRや負債比率が緩やかに改善し、全体として金利耐性が高まっている。ただし財務指標のばらつきや貸出金利の形態によって影響は異なる。家計では変動金利型住宅ローンの適用金利が上昇する一方、賃金上昇など雇用所得環境の改善が返済負担を和らげるとみられる。物件価格上昇を主因にローンが大口化し、毎月返済額を一定範囲に抑えるため35年超の超長期ローン利用が増加している。金融機関には利用者への十分な説明と丁寧なリスク管理が期待される。
景気回復と金利上昇などを受け、信用コストが抑制されるなかコア業務純益の改善が続く一方、円債の保有比率が高い地域金融機関を中心に評価損が拡大した。多くの金融機関では円債残高の圧縮やデュレーション短期化が進み、金利リスク量の削減が評価損を抑えている。預貸率の高い地域金融機関では定期預金金利を高めに設定する傾向があり、それによる預金は金利・経済動向への感応度が高く粘着性が低い可能性があるため、金融機関には相場変動やバランスシート変化を踏まえた管理が求められる。
日本銀行は考査・モニタリングなどを通じ、金融機関に潜在的脆弱性への取り組みを促す。また、マクロプルーデンスの視点から、金融機関の多様なリスクテイクが金融システムに及ぼす影響を引き続き注視する。