令和8年度年次経済財政報告―成長型経済への本格的移行に向けた課題―第2章 経済の構造変化と家計への影響 — 第3節 時間と労働供給
概要
労働時間は減少傾向にある一方、フルタイム労働者は勤務時間を柔軟に調整しにくい。長時間労働は健康や満足度を損ね、通勤時間も労働供給や就業選択を左右する。求人の少ない地域では企業の買い手独占により賃金が抑制される可能性があり、柔軟な働き方、労働移動、最低賃金、テレワークの適切な運用が課題となる。
要点
- 労働時間の減少は就業率上昇により労働投入全体への影響が一部相殺されている。
- 希望労働時間には個人差があり、勤務制度が調整を制約している。
- 通勤時間は余暇、労働参加、仕事とのマッチングを左右する。
- 求人の集中度が高い地域ほど賃金が低い傾向が示される。
概要
本節は、労働時間と通勤時間を軸に、家計の労働供給、働き方、労働市場のマッチングを分析する。労働時間は2013年の月163.6時間から2025年の149時間へ減少したが、就業率の上昇が労働投入を支えた。
平均労働時間の低下は、労働者の属性構成の変化よりも、男女・年齢・産業など各属性における労働時間の低下の寄与が大きい。
主要数値
- 個人単位の労働時間の変化(2013年から2025年)
- 月163.6時間から月149時間へ
- フルタイム相当の労働時間を減らしたい労働者(2025年)
- 33.9%
- 長時間労働の影響が表れやすい週労働時間の境界
- 週50~60時間程度
- 分析対象とした通勤圏の数(2025年)
- 1,000の通勤圏
- 市場集中度上昇に伴う賃金低下
- パート労働者で約10~12%、フルタイム労働者で6~8%程度
影響
長時間労働は健康、家庭生活、仕事への満足度、時間的・心のゆとりを損ねる傾向がある。特に週50時間超では仕事や健康への不満が高まりやすく、企業の生産性や育児・介護と就労の両立にも影響する。
通勤圏内の求人が少ない地域では、労働者の選択肢が狭まり、企業の買い手独占による賃金抑制が生じ得る。最低賃金の適切な運用やテレワークの普及は、地方の待遇改善と市場競争の促進につながる可能性がある。
詳細
2025年の正規雇用者では、労働時間を増やしたい割合は7.2%、減らしたい割合は33.9%だった。正社員で増やせない理由として、65.7%が勤務制度など会社都合を挙げた。副業実施率は11.0%で、統計間の労働時間差には副業の扱いの違いが影響する可能性がある。
通勤時間は都市部で長く、東京都では片道30分未満の労働者が34%、全国では56%だった。通勤時間が長い労働者ほど、労働時間を減らしたい傾向がみられ、テレワークは総拘束時間を短縮し得る。
2025年の通勤圏では、求人数250件以下が約40%、5,000件以上が約3%で、50件以下も全体の20%超を占めた。通勤圏と職種別のHHIは2017年から2025年に概ね横ばいだが、集中度が高い市場ほど賃金が低い関係が示された。