日本銀行の内田副総裁が2025年7月23日に高知市で行った記者会見について、地域経済の現状認識と金融政策運営の考え方、日米関税交渉合意の影響を中心に述べたものです。
高知県経済については、観光客数の増加などを追い風に全体として持ち直していると評価しました。今年度も積極的な賃上げを継続する企業が多い一方で、賃上げを実施できていない零細企業も相応に存在し、廃業・倒産する企業数は増加基調にあることを指摘しました。高知県は製造業・輸出産業への依存度が高くないため、各国の通商政策による直接的な影響は今のところ限定的ですが、不透明感が強い状況が続いており、中小企業への悪影響を注視していく必要があるとしています。
中長期的な課題として、人口減少と人手不足の深刻化が挙げられました。若年人口の減少に歯止めがかからず、宿泊業などで人手不足による需要の取りこぼしが発生している状況です。対応策として、地元の行政・経済団体・金融機関が産業振興、インバウンド需要の取り込みによる若年層の雇用・所得環境改善、女性・高齢者・外国人材の活用促進、デジタル活用支援による生産性向上などに取り組んでいることが紹介されました。
日米関税交渉の合意については、大変大きな前進であり、日本経済にとって関税政策を巡る不確実性の低下につながると評価しました。特に日本企業にとっての不確実性が低下したことは重要ですが、米中・米欧など各国間の交渉は残っており、関税の影響が内外経済にどう波及するかについても不確実性が残っているため、世界経済全体・日本経済全体にとっての不確実性は引き続き高いと認識しています。
金融政策運営については、リスク・マネジメント・アプローチに基づき、常に存在する先行きの不確実性の中で最適なポジショニングを取ることが基本的な考え方であるとしました。4月の展望レポートでは経済・物価ともにダウンサイドリスクが大きいと判断しており、その大きな構図は続いているとの認識を示しました。現在の状況では、緩和的な金融環境を維持して経済をしっかりと支えていく必要があるとしています。
物価動向については、今年度入り後、値上げの動きが米以外にも食料品や一部外食に広がり、消費者物価は予想よりも強めに推移していると指摘しました。ただし、米価格の上昇などコストプッシュ的な要因は政府の各種対応もあっていずれ減衰していくとみており、重要なのはこれが基調的な物価上昇率にどう影響するかであるとしています。食料品価格上昇は物価見通しの上振れ要因となる一方、消費者マインドや個人消費への下押し圧力にもなるため、両面の影響を丁寧にみていく必要があるとしました。
賃上げについては、人手不足が厳しい中で賃上げの動き自体はモメンタムとして続いており、メインシナリオとして賃上げは今後も続くとの見方を維持しています。高知県内でも多くの企業が人材確保・係留の観点から積極的な賃上げを継続する見込みですが、企業間のばらつきは大きく、零細企業を中心に賃上げ原資を十分確保できていない企業も少なくないとしています。
記事は、日本銀行が引き続き本支店のネットワークを通じて情報収集を行い、企業規模や地域によるばらつきを含めて丁寧に賃上げの動向を確認しながら、2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現できるよう適切な政策運営を進めていくと結論づけています。