排出量取引制度小委員会(第2回)

経済産業省が開催した「排出量取引制度小委員会(第2回)」は、我が国の脱炭素社会実現に向けた市場メカニズムを活用した排出削減制度の具体的設計について専門的検討を行った会議の記録です。

会議概要では令和7年8月6日に開催され、産業界、学識経験者、環境団体等から構成される委員約20名が参加し、座長は東京大学公共政策大学院の有馬純教授が務めました。政府の2050年カーボンニュートラル目標達成に向けた政策手段として、排出量取引制度(キャップ・アンド・トレード)の導入可能性について議論が行われました。

制度設計の基本方針では、産業競争力への影響を最小限に抑えつつ、効果的な排出削減を実現する仕組みの構築が重要な論点となりました。EU-ETS(欧州連合域内排出量取引制度)、カリフォルニア州制度、東京都キャップ・アンド・トレード制度等の先行事例を参考に、日本の産業構造と制度環境に適した制度設計を検討しています。

対象セクターでは、電力業(約4.5億トンCO2)、鉄鋼業(約1.6億トンCO2)、化学工業(約0.9億トンCO2)、セメント業(約0.4億トンCO2)、石油精製業(約0.3億トンCO2)等のエネルギー多消費産業が主要な検討対象となっています。これらの産業で国内総排出量の約65%を占めており、制度の実効性確保には主要排出源の包含が不可欠です。

排出枠の設定方法では、過去の排出実績に基づく配分(グランドファザリング)、業界標準に基づく配分(ベンチマーク)、オークション方式による配分の組み合わせについて検討されました。産業界からは国際競争力への配慮を求める声が強く、無償配分の比重を段階的に減らしていく方向性が示されています。

価格形成メカニズムでは、炭素価格の上限・下限設定(プライスコリドー)の必要性について議論されました。過度な価格変動は企業の投資予見可能性を損なう一方、適切な価格シグナルによる削減インセンティブ確保も重要です。初期段階では上限価格を1トンCO2当たり5,000-8,000円程度に設定する案が検討されています。

国際リンケージでは、将来的なEU-ETSとの接続可能性を視野に入れた制度設計が議論されました。EU-ETSとの統合により炭素リーケージ(生産拠点の海外移転による排出増)防止効果が期待される一方、制度運営の複雑化や主権的政策決定への制約等の課題も指摘されています。

中小企業対応では、中小企業への直接的な規制適用は困難であるため、大企業を通じた間接的な削減効果の創出を重視する方針です。サプライチェーン全体での削減を促進するため、大企業のScope3(サプライチェーン排出量)削減努力を評価する仕組みの導入が検討されています。

技術革新促進では、排出削減技術への投資インセンティブとして、早期削減行動に対するクレジット付与、革新技術導入企業への排出枠追加配分、研究開発投資額に応じた調整措置等が提案されています。特に水素還元製鉄、CCU(CO2回収・利用)技術等の実用化促進が重要視されています。

経済影響分析では、制度導入による産業への影響を定量的に評価しており、炭素価格1トンCO2当たり3,000円の場合、鉄鋼業の生産コストが約2.1%、化学工業が約1.8%、セメント業が約3.4%上昇すると試算されています。一方、省エネ・低炭素技術の導入促進による競争力強化効果も期待されています。

段階的導入スケジュールでは、2026年度に電力業を対象とした試行段階を開始し、2028年度から製造業を段階的に追加、2030年度に本格運用を開始する工程表が提示されました。各段階での制度改善と対象セクター拡大により、2030年度には国内排出量の約70%をカバーする規模を目指しています。

モニタリング・報告・検証(MRV)システムでは、排出量の正確な測定・報告・第三者検証体制の構築が重要課題です。既存の省エネ法、温対法の報告制度を活用しつつ、国際基準に準拠した検証システムを整備する方針です。年間約2,000事業所が対象となる見込みです。

制度運営体制では、排出量取引制度管理機関(仮称)を新設し、排出枠の配分・管理、取引の監視・管理、違反事業者への制裁措置等を一元的に実施する体制を構築します。運営費用は参加企業からの手数料収入で賄い、政府予算への負担を最小化する方針です。

国内制度との整合性では、既存の自主行動計画、省エネ法、温対法との重複排除と制度間連携の確保が重要な論点となっています。制度の簡素化と事業者負担軽減のため、報告・届出の一元化、デジタル化による効率化等を推進します。

今後のスケジュールでは、第3回会合(令和7年9月上旬予定)で制度詳細設計の検討、第4回会合(同10月上旬予定)で中間取りまとめを行い、年内に基本方針を策定する予定です。2025年度中に関連法案を国会提出し、2026年度からの段階的導入を目指します。

記事は、排出量取引制度が2050年カーボンニュートラル実現に向けた重要な政策手段であり、産業競争力との両立を図りながら実効性の高い制度設計を実現することが日本の脱炭素戦略成功の鍵であると結論づけています。

※ この要約はAIによって自動生成されました。正確性については元記事をご参照ください。