文化庁が2025年3月に公表した「令和6年度文化行政調査研究 文化芸術の経済的・社会的影響の数値評価に向けた調査研究」について、日本の文化産業の経済的インパクト評価手法と調査結果を詳細に解説したものです。
本調査研究は株式会社エス・ティ・ディ・データ経営研究所により実施され、ユネスコ文化統計フレームワーク(UNESCO Framework for Cultural Statistics)に基づく我が国初の包括的な文化GDP推計を実現した画期的な研究成果となっています。調査目的は文化芸術分野の経済的価値と社会的影響を科学的に定量化し、根拠に基づく文化政策(EBPM)の基盤構築を図ることです。
文化GDPの詳細推計では、ユネスコが定義する6つの文化ドメイン(文化的・自然的遺産、パフォーマンス・祭典、ビジュアルアーツ・工芸、著作・出版、オーディオ・ビジュアル・インタラクティブメディア、デザイン・クリエイティブサービス)について、産業連関表と各種統計を活用した精緻な算出手法が確立されています。特に従来把握が困難であった無形文化財、伝統工芸、地域祭典などの文化活動についても経済的価値の定量化が実現されています。
各文化ドメインの分析結果では、著作・出版分野が最大の経済規模を持つことが判明し、次いでデザイン・クリエイティブサービス、オーディオ・ビジュアル・インタラクティブメディアが続く構造が明らかになっています。付加価値の推移分析では、デジタル化の進展、コロナ禍の影響、消費者行動の変化が各ドメインに与えた影響が詳細に評価されています。
文化雇用の数値化では、文化部門で働く人材の規模と構成について初の本格的推計が実施されています。2021年の文化雇用数(暫定値)の算出により、日本の労働市場における文化産業の位置づけと雇用創出効果が定量的に把握されています。正規・非正規雇用の構成、地域別分布、年齢構成、スキル要件などの詳細分析も含まれています。
文化貿易分析では、日本の文化コンテンツの輸出入について、アニメ、マンガ、ゲーム、音楽、映像コンテンツなどの品目別動向が詳細に分析されています。特に「クールジャパン」政策の効果測定、海外市場でのジャパンブランドの競争力評価、文化外交への貢献度について定量的評価が行われています。
国際比較調査では、イギリス、フランス、ドイツ、韓国、カナダ、オーストラリアなどの主要国における文化GDP算出手法の比較分析が実施されており、日本の文化産業の国際的位置づけと競争力が客観的に評価されています。各国の政策手法、支援制度、統計整備状況についても詳細な比較検討が含まれています。
社会的影響の評価では、文化芸術活動が地域活性化、観光振興、教育効果、社会包摂、健康増進などの多面的な社会的価値を創出していることが実証的に分析されています。
記事は、日本の文化政策が科学的根拠に基づく政策立案(EBPM)へと転換する重要な転換点において、文化芸術の真の価値を定量的に評価し、戦略的な文化政策の基盤を提供する革新的研究成果となっています。