文化庁が2025年3月に公表したAI技術をはじめとするデジタル技術の進展が著作権制度に与える影響について諸外国の動向を調査した結果概要報告書です。
調査の背景と目的
人工知能（AI）技術やデジタル技術の急速な進展により、著作権制度が想定していなかった新たな課題が世界各国で浮上しています。生成AI技術による著作物の学習・利用、デジタルプラットフォーム上でのコンテンツ流通、NFTやブロックチェーン技術を活用した新しい著作物取引形態など、従来の著作権法の枠組みでは対応が困難な問題が増加しています。本調査は、これらの課題に対する諸外国の法制度整備状況、政策対応、司法判断の動向を体系的に把握し、日本の著作権制度の今後の方向性を検討するための基礎資料として実施されました。
各国のAI・著作権政策
調査対象国では、AI技術と著作権の関係について多様なアプローチが取られています。米国では「フェアユース」（公正使用）の概念を拡張的に解釈し、AI学習目的での著作物利用について比較的柔軟な対応を示す一方、欧州連合（EU）では「デジタル単一市場著作権指令」の施行により、より厳格な権利保護と透明性確保を重視する方向性を打ち出しています。
英国は独自のバランス型アプローチを採用し、AI研究・開発の促進と権利者保護の両立を図るため、特定条件下でのAI学習例外規定の導入を検討しています。韓国や台湾などアジア諸国・地域でも、AI技術の発展と文化産業振興の観点から、著作権制度の柔軟化に向けた議論が活発化しています。
デジタルプラットフォーム規制
各国ともデジタルプラットフォーム事業者への規制強化を進めており、著作権侵害コンテンツの自動検出・削除システムの導入義務化、権利者への適切な対価分配メカニズムの構築、透明性レポートの公開義務などが法制化されています。特にEUの「デジタルサービス法」と「デジタル市場法」は、大規模プラットフォームに対する包括的規制の先駆けとして国際的に注目されており、他国の政策形成に大きな影響を与えています。
新技術への法的対応
NFT（非代替性トークン）やメタバース空間における著作物利用、ブロックチェーン技術を活用した権利管理システムなど、新興デジタル技術と著作権の関係についても各国で法的整備が進んでいます。これらの技術が既存の著作権概念（複製権、公衆送信権、翻案権など）にどのように適用されるか、国際的な統一基準の必要性などが重要な論点として浮上しています。
国際協調の必要性
調査結果は、デジタル技術の発展に対応した著作権制度の整備において、各国の単独対応では限界があり、国際的な協調と統一基準の策定が不可欠であることを示しています。WIPO（世界知的所有権機関）での多国間協議、二国間・多国間条約の改正、民間企業を含むマルチステークホルダー対話の重要性が強調されています。
記事は、AI時代の著作権制度は技術革新と権利保護のバランスを取りながら、国際協調のもとで柔軟かつ実効性のある制度設計を行う必要があると結論づけています。